日常が繰り返されてるんじゃないかって、錯覚したことが昔一度だけある。あまりにも退屈で仕方なかった時期だったから。今思うと若気の至りというやつと冷静になれるが、それでも退屈という点においてはそのとおりだと思う。事実今も退屈なのだから。ルーティンとなった行動はもはやタスクとさえ思えてきて、しまいには呼吸という素体に組み込まれたプログラムすら自分の意思で動かしているんじゃないとか、そんなことを悶々と考え始めてしまった。地面に落とされた雨水が浸透して無くなるように、一時の異物もやがては風化してしまう。ああ、ほんとうにつまらない。そうすると生きることも面倒になるもので、眼前に並べられた食事も色をまとった無機質なブロックのように見えた。残すのは倫理的にもプライド的にも許さないのできちんと完食するが。食感さえ砂のそれに変わりそうだ。いつもどおり空になった胃に詰め込んでいたら、何気なしにテレビを点けてみた。無音の部屋に喧騒があれば多少は雑念が消えてくれると思ったから。だけどどの局も大して興味がそそられない番組ばかり。検証とか口論とかどうでもいい。やっぱり消そうかと思い至った時、ひとつの番組がテレビの液晶に広がった。鼓膜を劈く歓声と、大きなステージに立つひとりの少年。背格好は同じくらい、いや多分私より少し小さい。だけどその佇まいは歴戦の王者の風格を持っていて、カメラを見ているだけの眼差しはそれすら透過して私を見ているんじゃないかと思わせる。誰だろうと思った時、実況者らしき人の声が「勝者、武藤遊戯!」と声高に叫んだ。

「武藤遊戯」

ぽつりと呟いてみる。するとどうだろう、褪せていた文字に色が見えた。微睡みに浸かろうとする心臓が躍動を速めた。私の胸に湧き出る感情があった。むとうゆうぎ、武藤遊戯。こんなにも湧くのはいつ以来だろう。ひょっとしたらあの時以上の感覚かもしれない。ようやく私のルーティンが事切れる。見つけた、見つけたよ、私の光。

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