遊戯と言い合いをした。デュエルしてる時の彼じゃなくていつもの彼と。どちらが悪いわけでもないけど、互いの意見が衝突して、引くに引けないところまで縺れ込んでしまったというわけである。だからと言って、顔を合わせるたびに目くじら立てるほど子供じゃないから、多少ギスギスしてても私達は至って平静だ。

「いい加減にしてよ、ふたりとも」

昼になったことだし、いつもどおり杏子と弁当を食べていたら突然怒られた。これには私も遊戯もわけが解らず目を丸くし見上げることしかできない。いつもは真っ先に仲介役を買って出る城之内も何も言えないようで、本田なんか傍観者に徹することを決めたふうだ。

「どうしたの杏子」

「どうしたのじゃないわよ。何があったか知らないけど、喧嘩してるなら仲直りしてよ。そう険悪なムードだとこっちまで疲れちゃうわ」

「そんなにギスギスした覚えないんだけどな。友達の前でも険悪なほど子供じゃないよ」

「そうそう、普通だよ普通。遊戯なんかにキレるわけないじゃん」

いつもと変わらない調子なのに、杏子も城之内も本田も呆れた風情で肩を落とす。遊戯とはちょっと揉めただけで喧嘩のレベルではないのに、一体全体どこら辺が彼女たちに喧嘩と映ったのだろう。しまいには杏子が眉を吊り上げることに。広げていた弁当箱をそそくさと片付ける。それは城之内も本田も一緒だった。

「いい? ふたりとも。今日中に仲直りしてね、じゃないとグラウンド十週させるから」

「が、頑張れよ遊戯」

「いい知らせを待ってるぜ!」

言うだけ言って彼らは教室へ戻って行った。屋上に残されたのは私と遊戯と、多分もうひとりの遊戯も居ると思う。せっかく卵焼き多く作ってきたのにあげる人居なくなっちゃった。大食いというわけでもない私が、腹八分目に追い打ちをかけることはできず、泣く泣く夕食に回すことを決めた。温めれば大丈夫だと思うし、いっか。何とはなしに空を見上げてみる。日差しに眩んで目を眇める。春の訪れを感じる風が吹いているのに気分は落ち着かない。ふたりの間に会話はなく、いつも以上に風の音がうるさかった。

「食べないの? それ」

重たい沈黙を破ったのは、意外にも遊戯の方だった。もうひとりかと思ったが違うらしい。返答に詰まりつつも言葉を返す。

「お腹いっぱい。食べる?」

「君がいいなら」

「あげる」

片付けようとした弁当箱を彼に差し出した。夕食予定の卵焼きは瞬く間になくなる。作ったものは食べるに越したことはないから私は一向に構わないが、卵焼きを渡し終えるといよいよ会話が無くなってしまった。再度重たい沈黙が流れる。よく遊戯の方から話しかけてきたな。もうひとりに言われたんだろうか。どっちでもいいけど。

「私さ」

「え?」

「遊戯に言ったアレ、変えるつもりはないし今だってそれが得策だって考えてる」

返事の代わりに何か言いたげな眼差しを送ってくるのは感じていたが、反省してる体を装うつもりはない。

「だけど別に遊戯と仲違いするつもりはないよ。友人と思ってることには変わりないし」

「うん。僕も君を友達と思ってる気持ちは変わらないよ。あの時は夢中になって言いすぎちゃったね、ごめん」

「謝らなくていいよ、私もそんなとこあったし」

「じゃあ仲直りだね」

「そもそも喧嘩してたの? 私達」

「どうなんだろう」

ともあれ、昨日から続いた言い合いにようやく終止符が打たれた。重荷が取れたことによって食欲が湧いてきて、弁当箱に残されていた卵焼きを食べきる。甘くて柔らかいお手製の卵焼き。いつもと変わらない分量と調理法なのに、今日の卵焼きはいつもより格段と美味しいように感じた。そして昼休憩の終わりを告げる鐘が校舎に鳴り響く中、私と遊戯は揃って教室に戻る。席に着いていた杏子は私達の顔を見て胸を撫で下ろした。杏子の隣にある自分の席に腰を下ろせば、彼女はそれを見計らって話しかけてきた。

「結局何が原因で遊戯と喧嘩してたのよ」

「デッキの構成」

「はい?」

「私、獏良のようにモンスターを削れば削るほど強くなる構成が好きなんだよね。それで見事意見が対立したの」

遊戯の性格からして一番嫌いそうな構成ではあるが、ハイリスクを背負うだけリターンも大きい。それを推す私とモンスターはみんな仲間だと考えを持つ遊戯が対立するのは自然なこと。それを言えば、杏子はまたしても呆れた風情で溜息を吐いた。なんで?

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