2023/03/19
あの子の手は産まれたばかりの赤子のように綺麗。あの子の唇は桃のように甘くて柔らかい。あの子の声は透き通った湖のようによく通る。あの子の所作は人形のように洗練されている。あの子は愛されるために産まれて、愛を受けながら育ってきた。そう思ってしまうくらい、あの子のすべてに愛が含まれている。
「杏子ちゃん、いつまでこの体勢なの?」
もう十分も経ったよと少々むくれる彼女。首を後ろに倒して上目遣いでこちらを見る仕草だって、他の女子ならなんとも思わないけど、彼女が相手だとこんなにも愛おしさを感じてしまう。ごめんごめんと軽く謝りながらも後ろから抱き締める自分の腕は緩めない。口では抗議しているが、嬉しさや綻んでいる顔が見えてしまっているので、ますます温かい気持ちが込み上げてくる。
「あんたって可愛いよね」
事実を言っただけなのに、彼女は「杏子ちゃんって可愛いって言うの好きだねぇ」とくすくす笑う様は小悪魔的に見えた。だけど髪から垣間見えた耳は赤く色付いているし、小悪魔的に笑う顔はやっぱり嬉しそうで、うっかり抱き締める腕に力が入ってしまって苦情を言われても離す気にはなれなかった。他の女子みたいに「杏子ちゃんの方が可愛いよ」なんて見え見えの嘘は吐かない。言われて当然といった態度も見せない。けれど否定しない自信ありげなところも好きだった。私が女の子という概念を具現化してと言われたら彼女しか浮かばないだろう。可愛い可愛い、私の彼女。