2022/09/19



私は可愛いものが好きだ。童話に出てきそうなファンシーな小物たちや、フリルやリボンをふんだんにあしらったロリィタの服や、果てにはふわふわの毛並みが愛くるしいハムスターや犬猫などの動物まで。そりゃあもう、この上なく可愛いものが好きだ。可愛いものを見たら嫌なことすべてが吹き飛ぶくらい大好きだ。家で飼ってるラブラドールレトリバーのぽん助と、ジャンガリアンハムスターのナス美を思い出して頬がたるみそうになる。おっといけない。家じゃないのだから、ひとりで突然デュフフやデレへへへなんてできない。奥歯で頬肉をしっかり噛み、ペットの愛くるしい姿を上塗りするように空を仰いでみる。うん、少しは落ち着いてきたかも。あー、はやく家に帰りたいな。ぽん助とナス美を撫でくりまわしたいな。デュッフッフッフ。

「なにか心配事でもあるの?」

一日の終了を実感させる掃除の時間。それもあと十分で終わるとなり、教室を飛び出したい気持ちが湧いてくる。逸る気持ちを落ち着かせていると、ゆくりなくクラスメイトの遊戯くんに話しかけられた。心配事? 何が?脈略のない心配に思考回路は停止してしまい、間抜けにも彼を見て目を瞬かせてしまう。だけどいつまでも呆気にとらわれる私ではなく、よく解らないが肩を竦めた。

「なんでもないよ」

困惑を隠そうとして頬を掻く。ペットをモフりたいなとか、ぽん助の体躯を抱いて床に転がりたいなとか、そんな狂人みたいな欲は決して口が裂けても言えない。明らかな疑心の目を送られ、早く会話を切り終えたかった私は遊戯くんが手にしている箒を奪い取り、戻してくると言って早々に踵を返した。怪しいことこの上ないけどどうか深堀りされませんように。

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