日向創くんとアイランド
お休みを貰っていた私のもとに、日向くんが会いに来てくれた。
きっと、ウサミちゃんの言うらーぶらーぶ、になるためのカケラ集め……のため、かな。
しばらく日向くんとお話をした私は、ふと前に聞いたことがあるような話を思い出して、折角なのでそれを日向くんに振ってみることにした。
「日向くん。質問があるんだけど、いい?」
「ん? なんでも聞いてくれ」
「あのね、日向くんは愛されたい? それとも、愛したい?」
「え?」
やけに唐突だな、とでも言いたそうな日向くんに少しだけ笑ってみる。
この質問の前は、好きな食べ物だったり場所だったりの話だったから、無理はないだろうけど、そこまで困った顔をしなくてもいいんじゃないかな。
日向くんは少しだけ俯いて考えて、私の方を見た。
「俺は……愛したい、だな」
私の様子を伺うようにそう答えた日向くんに、そっかぁ、と一言返す。
「日向くんは愛す側かぁ。……ふふ」
「な、なんだよ? 何かおかしいか? っていうか、お前はどうなんだよ」
「私? うーん、私も……愛したいかな」
「…………なぁ、これって、何か意味があったのか?」
視線を逸らしながら、疑問を口にした日向くん。私は、キラキラと光る水面を見つめながら口を開く。
「愛されるより愛す人の方が、愛を感じるんだって。だから、ちょっと気になったんだ」
「へ? そうなのか?」
「うん。そうみたい。よくよく考えてみれば、確かにそうかなーって」
どこかで聞いた、だけどどこで聞いたのか思い出せないそのネタを口にすれば、日向くんは少しだけ首を傾げた。
やがて、納得したように伸びた声を出して頷く。
「日向くんは、恋人を束縛しちゃうタイプかもね」
「えっ!?」
なんとなく思ったことを口に出せば、また驚いたような顔をする日向くん。
表情が豊かで、ちゃんと私と話をしてくれる日向くんは、一緒にいて楽しいと思う。
「今度は、なんとなく言ってみただけ。……うん、でも、愛したいって思う人は大体執着しちゃうタイプかもね」
「どうしてだ?」
「愛される方は、相手からの愛情を受け取ってるから幾分か安心だと思うんだけど、愛す側って自分は相手に一途に想いを向けてた場合は、その子しか見えてないんじゃないかなー、って」
少しだけ困った顔をした日向くんに苦笑を返す。
言いたいことがうまくまとめられなくて、少しだけ焦ってしまいそうになる。
「うーん、っとね。愛をあげている立場の人って、相手に愛をあげることで精一杯で、相手からの愛に気付きにくいんじゃないかなって思ったんだ。悪く言えば自己満足……なのかな? 庇護欲求…みたいな、僕が愛さなきゃ、って感じ?」
「愛されてる方が、愛してる方を愛しててもわかってもらえないってことか?」
「うん。想いが強過ぎるとね。だからだんだん愛されてる方が愛してる方に不満になっちゃって離れてく。それを愛してる方が追いかけて捕まえる……」
「…………なんか、病んでないか?」
「確かに…………」
自分で言っておきながら、なんだこれと思う具合には病んだことを言ってしまった。
日向くんの様子を伺うと、理解したような、していないような中途半端な顔をしていた。
「話はちょっと変わるんだけど、日向くんは束縛って大丈夫?」
「そうだな、俺は気にしないな」
「へぇ……どの辺りまでいいの? 携帯監視とかまで?」
「好きな子ならなんでも受け止める」
「!」
あまりにもイケメンな返答をされて少し戸惑う。
日向くんって油断しきってお話しすると少しだけ危険な相手なのかも。
「……なんでそんな顔するんだよ」
「わ、私のことじゃないのにちょっとドキドキしちゃって……日向くんってかっこいいんだね」
「!? あ、ありがとう……」
「やりまちたね日向くん! キボウノカケラ、ゲットでちゅ!」
「ひっ!!」
「あ、驚かせちゃいまちたか? 丼田さん、ごめんなちゃい……」
どこからともなく、突然ひょこんと現れたウサミちゃんに、早鐘を打っていた心臓が止まりそうになる。
「うふふ、それにしてもらーぶ、らーぶでちゅね! 生徒のお二人がこんなに仲良しになってくれて、あちしはあちしは嬉しいでちゅ!」
「うぅ……ありがとうございます……」
心臓のあたりを摩りながらなんとか鼓動を落ち着かせて、ウサミちゃんのフエルト地の頭をなーでなーでする。
えへへ、とにっこり笑って撫でられるウサミちゃんが可愛くて、ついつい抱き上げてぎゅーっとしてしまう。
「タイミング悪すぎだろ……」
「ほぇ? 日向さん、どうしまちた?」
「い、いや! なんでもない!」
「日向くん……あの、今日はありがとう」
「俺の方こそ! あの、良かったら……」
「うん。またお話ししたいから、待ってるね」
ウサミちゃんを胸に抱いたままにっこり笑う私に、同じように笑って手を振ってコテージへと戻っていく日向くん。
手を振り返していると、ウサミちゃんが私を見上げてうふふ、と笑った。
「その調子でちゅ。もっと仲良くしましょうね」
「……? 勿論だよ。……私、ウサミちゃんとも仲良くしたいから、いっぱいお話ししようね」
「丼田さん……ありがとうございまちゅ。あちしはとってもとっても……!」
フエルト地の頬を涙で濡らしながら、私に強く抱きついたウサミちゃんの背中を撫で、私は夕ご飯の準備を手伝おうと、レストランへの階段を登った。