私は棄てられた。壊れた玩具のように。
父親は私を知らないと言い、母親は哀願しても側に居てくれなかった。
そう、周りは敵だらけ。
安心して過ごせる場所なんてなかったの。
でも今は
暗い海の底に横たわって、苦しさが何故か心地良く感じる。
キラキラと光る水面、口から漏れる水泡がゆっくりと遠ざかるそれは意識をも拐って、視界を白く染めていく。
嗚呼、やっと解放されるのね…
目をつぶった瞬間、体が海底を離れた。
抱き締められる感覚。
温もりが優しい。
「起きろ!!」
「…スクア、ロ」
誰かが、誰かが海を殺しの道具にした。
でも貴方は海を、私が初めて人の体温を知った場所にした。
「頼む…死ぬな…」
海水が貴方を濡らして、頬を滑る雫は涙のようにも見える。
肺から水を吐きながら咳き込む私の背を擦って、弱々しく呟いた台詞は私を救った。
この命を捨ててしまいたかった。
そう言うと貴方は悲しむから、二度と望まないわ。
水面下でゆらゆらと揺れる銀色の髪。
それが穏やかで、美しくて…
生に縛られるのも良いと思えた。
「生きたい…」
.