眼が眩むほどの光を見たことがあるか。それはきっと産まれたときにしか見れないもので、次見る時は死ぬ間際だろうと思っていた。世界を変えてしまえるような人物にあったことがあるか。きっとその人物は赤いマントに強盗犯のようなメットをかぶったなにかよくわからない力が使える男なのだろうと思っていた。でもそれは違って。まったく全然ちがっていて。

目がくらむほどの光を見た。

なんてことはない春の体育館だ。桜はもう散っていて、緑を芽吹かせようかというころ。始めて部活に参加した時にコートのど真ん中に立つ男がドンと床にボールを付いた。シンと静まり返った空間を切り裂くように放たれたボールは高く高くあがり低く低く落ちたのだった。そのボールを投げた男は落ちていくボールには興味などないようで、ボールにも俺らにも背をむけて体育館を出て行ったのだった。締め切られた体育館は扉があいたことによって光が舞い込んだ。その光の眩しいこと眩しいこと。

世界を変える人物に会った。

目がくらむほどの光を見せつけた男だった。嫌味なくらいまっすぐな男は、なにもかもが不器用で、そのくせシュートだけはひどく繊細だった。なんてちぐはぐなんだろうと笑ってやると、そいつは困ったような顔をしたのだった。男はちっともちぐはぐではなくただ本当に繊細なだけだった。笑いかけてもにこりともしないあいつはバスケとしか会話をしないのではないかと影で笑われてさえいた。そんなこと、そんなもの。

はじめて人間とは汚いのだと思った。頑張っている人間をあざ笑う人間に初めてあったので。はじめて人間がきれいだと思った。俗的な比喩も声もなにも聞こえない世界でただシュートを繰り返す男はガラスの世界で生きているように思えた。

真ちゃん。

彼が嫌がるあだ名で呼んだ。きっと今はさして嫌がってはいないだろう。溶けたガラスの隙間を見ておもう。彼は眩しい。眩むほどに。ガラスの世界は乱反射してちかちかと。

目がくらむほどの光をみたことがあるか。世界を変えるほどの人にあったことは。高尾和成は10代にしてみてしまった。出会ってしまった。だからこそ。世界は劇的だ、こんなにも。だからやめられないのだと。

今、高尾和成という少年は、世界を手にいれようとしている。




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