なんでテメェみたいなのが男鹿とつるんでんだ、と因縁をつけられること星の数。なんなのキミタチそんなにあのアバレオーガが好きなんですか物好きね、と笑うと嫌いなんだよ!と吼えられる。知ったことじゃないけど、じゃあその好きな子と仲良くされて気にくわないみたいな台詞はどうにかならないんでしょうか不良のみなさん。

なんで、なんて本当に知ったことじゃない。聞いてくれ、本当は俺は男鹿とは違う学校に行くつもりだったんだ。なのになぜかあれよあれよと今も同じ学校に通っている。これはあれだな、腐れ縁というよりも腐りきった縁だ。なにが違うかと聞かれたら腐り具合だ。きっと俺と男鹿との縁はどろどろとしているにちがいない。お陰さまで俺のとなりには男鹿がいて男鹿のとなりには俺がいるのだ。なぜか?理由はない。ただ俺は彼女が出来ず、あの学校には支配者はいても友達はいず、男鹿は俺以外と関わりを持たず、というよりも人の名前を覚えられず。意外にもあのアバレオーガ、自分の懐にいれるまでが恐ろしく長いのだ。どうでも良さそうに何回と会ったことのある奴相手に「誰?」と尋ねるほどの鶏なのだ。

そんなこんなで今日も俺と男鹿は二人と思いきや。ここ数日で随分と男鹿は俺以外の存在を認識した。いやあ、良いことだ。たぶん、きっと。だから、俺ももういいかなと思っている。このどろどろに腐った縁を捨てるときが来たのだなと、そう思っている。

そのようなことを思い始めたのは東条が切っ掛けだった。俺なんざいなくても楽しそうに笑って朗らかではないがコミュニケーションという殴り合いをしていた。あ、こいつ俺といなくても楽しそうにできんじゃねぇかと。別に今まで男鹿と同情心やらで付き合ってたわけではないが(横にいたからというだけでなにも考えてやしなかった)とにかくそのように思えてからは、俺も用なしになったなあという思考が自然と浮かんだのだ。ただそれだけだ。思えばアイツはいつも不機嫌か凶悪面かであった。俺といないときは。それがなくなったということはもう男鹿は(いささか似合わないが)群れという社会に身を投じる時がきたのだ。

それから、少しずつ、少しずつ。線を引いて、線を引いたらそこから一歩一歩と遠ざかってみた。面白いくらいに気がつかない。当たり前だった。約束した関係じゃないのだからあってもなくてもなにかがあるというわけではないのだ。

さて、そうして距離を作ることによってものすごく時間が増えた。俺はどれだけあのやろうに時間を使ってやっていたのかというくらいに時間が増えた。もて余すには十分すぎてどうしたものかと悩んでいると、積み上がった教科書が目にはいる。なるほど男鹿といたら縁のないものだな、さすが智将と呟いたがバカにする声はなかった。


***


くるり、くるり、白い指に挟まった青色のシャープペンシルが回る。ペン回しなぞ古市の癖に生意気な。実は俺はペン回しができない。前に一度挑戦したそれは古市の頬を掠め壁に突き刺さった。頬から薄く血を流しながら腹を抱えて爆笑するやつをみてもう二度とやらないと密かに誓ったのだ。たかがペンを指先で回すことができないだけであれほどまでバカにされるいわれはない。

その古市であるが、くるり、くるりとシャープペンシルを回し、たまにコツコツと消ゴムのついた部分で顎骨を叩き、少し考えてはさらさらと紙に暗号を書いている。この学校のものではない教科書。しかもメガネなんぞしおって、調子に乗っている。耳にはイヤフォンがつけられていて、外野を拒絶しているようでもあった。こんなに俺が古市を見ていても、古市は一切俺を見もせず紙に向かい合っている。

ここ最近、古市と喋っていない。気がついたら居た奴が、気がついたらいなくなっていた。ビックリだ。いなくなっていたことにも気がつかなかった。夏目が楽しそうに「喧嘩でもしたの?」と言ったのに、ああ?なに言ってんだと後ろを振り返れば古市はいなくて、そうして初めて古市がいないことに気がついた。ダァとベル坊が声をあげるのに古市の声はそこにはなかったのだ。

それから数えてみるとカレンダー一列分ほど、古市と関わっていなかった。気づいてからはむしゃくしゃとして、家に行ってもいなかった。朝に迎えも来なかったし、昼にパンを引っ提げて屋上にも来なかった。帰りに俺を呼ぶ声もなかった。どうなってやがると授業にきちんと出ている古市を観察すること三日。その三日ですら会話もなく。朝は俺より早く学校にいて、昼はいろいろなところで一人で食べていた。本を読んだり寝たりと好きに過ごしている。帰りはさっくりと帰路につき、途中の喫茶店でアルバイト。まじかよ、似合わねぇ。しかし古市はにこにこと主に女相手に愛想を振っていた。まじかよ。

そうしてとうとう我慢がならなくなって古市の机を両手で叩く。ダンッと必要以上に大きな音がしたが古市は特に肩をはねあげたりとすることはなかった。ただ億劫そうに俺に目線をよこし、ゆったりとした仕草で耳に装着されたイヤフォンを外した。

「おい古市」
「どーした男鹿」

イヤフォンが両耳から外されたことを確認して古市を呼ぶと古市はとくに何でもない風に返事を返す。おや、これはおかしい。古市は怒っているわけではなかった。怒られるようなことをした覚えもなかったが、古市はとくになにか不満があるという風ではなかった。

「どういうことだ」
「や、別にもういいかなって」

さらに問い詰めると答えはあっさりさっくり簡潔に返ってきた。もういいかな。それが古市の答えだった。

「よくねぇだろ」
「いや、いいじゃん」

いい、悪い、そんな押し問答を二・三回ほどすると古市が長く息をはいた。やれやれといった仕草をしてから暗号ばかりのノートをぱたりと閉じた。眼鏡をはずして机の上に置く。そうして息を吸ってからもう一度「もういいだろ」と言った。

なにもいいわけがなかった。はっきりとした理由はないが古市が俺から離れて俺の知らないところで俺の知らないことをしているのは絶対にあってはならないことなのだ。少なくとも俺のなかでは。それがどうも古市にはわからないらしかった。

だめだだめだと駄々をこねるように古市に告げる。今の俺ってひょっとしなくてもすごくみっともないんじゃないだろうか。古市はただぽかんとした間抜け面で俺を見ているだけだ。



***



だめだ、よくない、ふざけてんのかアホ。そんな小学生ももう少し語彙があんぞ、と言いたくなる罵倒に思わず呆ける。なんだこいつみっともねぇな、とそこまで思っておかしくなった。

「おい、きーてんのかアホ市」
「……ふ、」
「麩?」
「ははっ!バカだろアホオーガ!」
「ああ?テメェ、んだとフール市が!」
「はいはいはいはい」
「テメ、」
「お前には、」

男鹿の声を遮る。ひぃひぃ笑って細くなってるであろう眼で男鹿を見る。訝しげな顔はすねているようにも見えてガキくさい。いや、まだまだ俺たちはガキんだけど。そう、ガキなんだよな。こんなくだらないことしてねーでバカやって笑って楽しいばっかりを集めるのが許されるクソガキなのだ。

「俺はもういらねーかなと思ったんだが、今回は俺がバカだったわ」
「おお、お前はバカだ」
「ムカつくなおい。まあ、いいや、寂しかったろ男鹿くん」
「バカ言うなアホ市」

寂しかったくせに、だからこんなにもみっともなく俺が離れるのを嫌がったんだろ。思ったけど言ってやらない。どっちだっていい。これから二人で馬鹿騒ぎをするのに退屈や寂しさなんていらないのだから。

「コロッケ奢れよ」
「しゃあねぇな」
「寂しくなんかなかったっつーの。ただ勝手にどっか行きやがるからムカついただけだ」

ほら、やっぱ寂しかったんじゃねぇか。そんな言葉もやっぱりぐっと飲み込んだ。しょうがないので今日はコロッケを一つばかり追加して奢ってやろうじゃないか。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -