ベッドの中は暖かい。温もりが一つではないから。元来自分は体温が高くない。逆に、眠りをともにする彼は体温が高く、一人寝より格段と暖かい。目尻を下げる。幸せだと思う。

ザンザスの部屋には、灰皿が多い。ベルフェゴールなどは己に投げるためであろうと笑ったものだが、ちゃんとした用途で使われるために常備されているのだ。ザンザスは煙草を吸う。金持ち風情の葉巻ではなく、安っぽい煙草。しかし、ザンザスは決してヘビースモーカーというわけではない。一日に何箱も開けて、灰皿をつぶすようなことはない。ただ少し潔癖の類なのか、きれいな灰皿に一本、煙草を押しつけたらもうその灰皿は使わないというだけで。なので、ザンザスの部屋には灰皿が多い。

以前、もう大分前になるだろうか。年若きドンがザンザスの部屋に立ち入ることを始めて許された時に、ザンザスが煙草を一本潰しただけで新しい灰皿に移るのを見て苦く笑ったのだった。

「なんだか、灰皿を取っ替え引っ替えっていうのは、女性を取り替えているようだね」

事実、その頃のザンザスは愛人の数も多く、また愛人の入れ替わりも激しかったので。実際、年若きドンもそれのことを諫めに来たのだけれど。(なにやら上にせっつかれて、重苦しい書類を手にザンザスの部屋の入室を許されたのだ。)もちろん、苦く笑った年若きドンの額にアルミ製の灰皿が命中したのは言うまでもない。

灰皿の数は、あれから減ってなどなく、むしろ増えたくらい。けれど、愛人の数は減った。いや、いなくなった、が正しいか。これもまた、今度は年若きドンの腹心に諫められて、眉間の皺を深く深く刻みながら深く深く息を吐いた。ふわ、と煙草の紫煙が漂う。私室でまで口を出される言われはないと煙草を加えていた口が、ゆるりと開く。口角をあげて、そうしてゆっくりと言い放った。

「愛人は全部殺す。今日からはそこのカスだけだ」

煙が少し、目に染みた。




それから。むやみやたらには殺すなとのお達しが出たので、愛人たちは丁重に縁を切った。さすがに騒いだ女は殺した。ランクの高い娼館から呼ばれているだけあって、そんな愚者は少なかったけれど。ザンザスは本当に愛人をすべて切った。

夜をともにすることが多くなった。暖かい夜を過ごすようになった。ザンザスの眉間の皺は減らないままだけれど、表情は幾分柔らかで。穏やかな時を過ごすことが増えた。蜜を分け合うことを知った。

横で眠るザンザスの髪に触れる。最近は髪をおろしていることが多くワックスを使わないので、とても柔らかな感触。年若いドンの言葉を思い返す。

「なんだか、灰皿を取っ替え引っ替えっていうのは、女性を取り替えているようだね」

ザンザスは未だに煙草を一本、灰皿に押しつけた後は必ず新しい灰皿を使う。けれど、今、熱を分け合うのは己だけだ。

見てみろ、そう言ってやりたい。あのとき言ってやれなかった分も合わせてたっぷり嫌みを込めて、言ってやりたい。

うちのボスさんみてぇに格好いい男が、んな無粋な真似するわきゃねぇだろぉ。

自信満々、尊大に言い放って、年若きドンと腹心にいつかの時と同じように苦く笑われるのはまた別の話。





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