冬の空気は冷たくて、息を吸えば身体がじわじわと冷たくなった。外が真っ暗になるまで練習していた。誠凛と洛山の試合はスーパープレイこそなかったように思うがいい試合だった、と、思う。いい試合だったと断言できないのは、ゲームすべてをくまなく見ていたわけではなく、やはり自身もコートに立つ身として、同じポジションの選手ばかり目でおってしまうために試合にたいしての印象が薄いからだ。観戦していて印象的だったのはゲームの内容でもなければ、布陣でもなく、傍らの先輩がこぼした「緑間がいなけりゃナンバーワンシューターかもな」という一言だった。そんなことない。たしかにキセキの彼よりとは言えないまでも、他にまで自信の前を譲った覚えはなかった。規格外の彼を除けば僕が一番強いと、周りには申し訳ないながらも自負していた。でもやはりその一言は心に残り頭に残り、つい体育館に長居してしまっていた。

体育館を閉めて、鍵を返し、真っ暗なグラウンドを横切る。もう人などいないだろうと思っていたのに校門前に小さな人だかりがあった。(こんな時間に?関係ないけど。)すこし気になりはしたがそのまま通りすぎようとして、聞き馴染んだ声に引き留められた。

「桜井くん」
「黄瀬さん」

ああ、それで。納得して、じゃあ、と歩き出そうとすると、彼は人だかりに「じゃあね」とだけ告げて自身の横に落ち着いた。なぜだか並んで歩き出す。

「スミマセン、なんですか」
「たまには一緒に帰ろうと思って」
「いつからいたんですか」
「夕方っスね」
「もう夜だと思うんですが。スミマセン」
「待つの好きだし」

桜井は返す言葉が見つからなくて、スミマセン、とだけ呟いた。そういえば、彼はストーカー癖というか、よく誰かを待ち伏せる。主にキセキの世代のところに行っては待ち伏せて話をしにいくらしい。自分の顔面を考えろって話ですよ、と水色の彼が吐き捨てていたのを思い出した。たしかにこんな時間でもこんな寒いなかでも人を集める力が彼にはあった。

わざわざ来たのだからなにか話すことでもあるのかと思っていたのに、彼はなにも話さず静かに桜井の横を歩いていた。勿論桜井にだって話題はない。冬の夜空は星がきれいで、なんとなく沈黙から逃げるように、傍らの存在から意識をそらすように星を眺めた。

流れ星を見たことがないんだと彼がいった。桜井は今日はじめて彼をしっかりと視界に入れた。灰色チェックのマフラーで口許を隠してもごもごと喋る。短い後ろ髪がマフラーに巻き込まれることなくぴょこりと跳ねている。星の色をした髪の毛だ。

「スミマセン、流れ星ですか」
「流れ星。青峰っちとか黒子っちと一緒に帰ってた時期があって、冬とか星、きれいでしょ。あーだこーだいいながら帰ってたら大体二人が、流れ星だ!って見つけるんス。でもオレだけみたことないんスよ、桜井くんはある?」
「スミマセン」
「いっしょっスね」

本当は流れ星をみたことはあった。ただ、なんとなく秘密にしておいた。ちらりと彼を見ると瞳を細めて夜空を眺めている。

「あの、どうして僕を待ってたんですか」
「だって恋人じゃん」

おずおずと聞いてみた。彼はやはりマフラーに口許を隠してもごもごとこたえた。こちらには見向きもせずに夜空を見ながら。桜井は黄瀬の視線の先をたどる。一筋光が流れる。流れ星だ。

「あ」
「どうしたんスか」
「なんでもないです」

たぶん彼はまた見逃した。星が流れたんです。言おうか迷って言わないでおく。かわりに、黄瀬さんの顔が騒がしいから星も寄り付かないんですね。と告げてやった。彼はちょっと驚いた風にこちらを見やる。ぱちり、はじめて視線があった。



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