捨てようと思えばなんだって捨てられる。服、CD、ギター、家具、お菓子、本、DVD、連絡先、思い出。捨てようと思いさえすれば指定されたごみ袋に詰め込んで、指定された日に家の外に出しておけばいいのだ。ただ捨てられないのは、俺が捨てたくないだけだ。

「先輩ってモノ持ちいいっスね」
「モノ持ちもなにもおいてあるだけだろ」
「俺、新しく買ったものとか一週間でなくしたりするんスよ」

なんでっスかね、なんて言って黄瀬が笑った。俺は黄瀬のきらきら光る頭を肘でコツンと小突いてやる。黄瀬はこづかれた箇所を両手で押さえて大袈裟に痛がった。

「うるせーな、そんなに痛くしてねーだろ。ほら、借りに来たのこれだろ」
「先輩からのは心が痛いんスよ、わ、ありがと」
「敬語」
「ごさいまーす」

黄瀬に手渡したのは数冊のノートだった。個人的に部活のメニューを書き貯めていたもので、俺が一年の頃から引退する三年間分、割りと簡単にまとめてあるので嵩張らないが、書きためてある日数が日数なだけに何冊かあるそれを、黄瀬はパラパラと読み始めた。

「や、でも一年の頃のも残してるなんてすごいっスね 」
「それは」
「なに」

黄瀬がノートから視線をはずす。無駄に光った眼が俺を見る。きらり、視線まで眩しい。少しばつが悪くなって俺は誤魔化すように頬をかいた。

「それは、」

捨てたくなかったから、だからおいてあるだけだと言おうとしてやめた。

「好きだったからな、バスケ。バスケ自体を辞めた今でも好きでいることをやめられなかったから残してあるんだよ」

かわりに違う言葉を告げた。嘘はない、のだけれど、言ったそばから気恥ずかしくなって舌を打つ。黄瀬がぱちくりと瞳を瞬かせた。

「そっかあ」

呆けた表情がほどけるに笑みを浮かべる。

「そうだよ」

この言葉にも嘘はない。やめられなかった、やめるつもりも勿論ない。だからきっと捨てられない。決まった曜日に紐で束ねて家の外に出しておく、そんなこと一生できる気もしない。



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