別にピザはそんなに好きじゃない、というより、普通。可もなく不可もなくてたまにちょっと食べたくなる程度。しかし手嶋は俺の好物をピザだと思い込んでいる。原因は一応ちゃんとわかっていて、ただ会話の拍子に嫌いじゃないと言ったことが種になっている。今じゃ種は大きな花を咲かせていて、手嶋のなかで俺の大好物はピザになっている。実は、ピザは嫌いじゃないというような会話をしたことをつい最近まで忘れていた。本当に些細な会話だったから、覚えている方が不自然なのだ。あのときはたしか、多分だけれど、日曜日で、手嶋がグローブを見に行きたいというから電車で三駅ほど離れたショッピングモールに行ったのだ。腹が減ったからと適当なファミリーレストランに入ってピザを頼んだ。あとハンバーグにライ麦パンとサラダ。手嶋は和定食を頼んでいたとおもう。料理が運ばれてきて机の上に並べられる。すべてお揃いですかと聞きながらこちらの声を聞く気もなくプラスチックの筒に伝票をねじ込む店員を見送って、ピザを切っていると手嶋が考えて不思議そうに俺を見た。

「なに?」
「ピザ、あんまりイメージないけど好きなの?」
「嫌いじゃないけど」
「ふうん」

ふうん、とこぼした手嶋の表情がなにかを考えているらしいことはわかったけれど、とくに気にすることでもないだろうと俺は目の前の食物を平らげることに専念した。

それ以来、なにかあると手嶋は俺にピザを買って寄越すようになった。記念日だとか、ちょっといいことがあったとき。たまにピザがなかったといって申し訳なさそうにピザパンやピザポテトを渡されるが、正直心底どうでもいいし、別にそこまでピザ好きじゃない。しばらくコイツは俺をバカにしてるのか、それともコイツがバカなのかを真剣に考えたものだったが、そういえばピザが嫌いじゃないといったこともあったなと思い出す。要するに手嶋はバカだったのだ。

今日は手嶋と俺が一応付き合いだして六ヶ月だった。好きだもんな、ピザ。なんてにこにこしながらバカをいう手嶋とならんでシェーキーズに向かっている。本来なら別に好きでもないし嫌いでもないしそこまでピザについて考えたこともないと返すべきなのだろう。けれど、手嶋があんまりにも楽しそうだから、オレは「そうだな」と返すし、俺がおごってやろう、とたかだか食べ放題に仰々しく言われたって「ありがとう」と返してやるのだ。なぜかって、オレはピザではなく手嶋純太が好きだからに他ならないからである。


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