歌が聞こえる。頭のなかで鳴り響いている。昨日の夜なかなか眠れなくてずっとウォークマンにいれていた音楽を聞き流していたから、それがずっと耳について残っているのだろう。歌が聞こえてなりやまない。

照りつける太陽に身体が焼かれ、水分が少しずつ搾り取られていく。からからだ。雲ひとつない空は青く、斜面を守るようにそびえる緑もあおい。黒いアスファルトだけが熱を帯びてタイヤを少しずつ削っていく。ジワジワと蝉が鳴いていて、観客もわいているのに鼓膜をくすぐるのは昨夜にさんざと聞いた歌だ。集中しなければいけないのにそわそわしてしまう。コースはとっくに坂に差し掛かっていたけれど、もうすこししたらさらに険しい坂になる。斜度が上がる。集中しなければ。

なんだか、この感じは入試のときに似ている。そうでもなければテスト当日とか。オレは古典がどうにも苦手でいつもイヤフォンを耳にねじ込んで音楽を聴きながら勉強していたから、いざテストの日になると聞いていた音楽がずうっと耳について離れないのだった。そうだそうだ、なんだかそんなものと似ている。歌が聞こえてなりやまない。

斜度が上がり肺がきしんだ。息が重たいペダルも重たい。クライマーにと言われたけれどやはり山は嫌いだ。どんなに策を労してもちっともごまかせない楽にならない。ぽつり、吐く息とともに音が漏れた。音楽がなりやまない。歌が聞こえる、耳につく。

歯を食いしばって坂を上る合間合間に歌を歌う。音がこぼれる、小さな音が。後ろから今泉が声をかける。

「手嶋さん変わりましょうか?」

オレはその言葉になんにも返さず小さく歌った。顔をあげる、空も緑もまっさおだ。蝉が鳴いてるはずなのに、観客が声をあげているはずなのに、脳に響くのは昨夜の音だ。



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