これは人を好きなように思うがままに出きるようになる薬です。いち、にの、さん、で成すがままです。そんな怪しいうたい文句を思い出しながら今泉の前で「いち、にの、さん」と唱えてみたらなんとびっくり今泉はオレのお人形になった、目尻がわずかばかり下がり、まぶたもちょっと下がっている。一見すると眠そうに見える今泉はよくみると正気じゃないと形容するのが正しい表情をしていた。まとう空気もどことなく気だるげでよそよそしい。

オレは今泉の顔の前でひらひらと手のひらを振ってみるが、今泉はなんの反応も示さない。よろこんで、と呟いてみれば、今泉は顔の筋肉をのろのろと動かして表面だけでにっこり笑って見せた。

「目がみたい」

ねだって見せると今泉はしゃがみこんでオレを見上げる。そうじゃないんだけどな、と想いながらもほかにうまく指示できる気もしない。諦めてまた口を開く。すきっていって。すると今泉は抑揚のないぼんやりとした声で「すき」と返した。オレは特になんの感慨も覚えずに言葉を重ねる。嫌いっていって。今泉はまたしても淡々とした音程で「きらい」と返してくる。ほんとに?ほんとに。今泉はまるでお人形さんだ、今泉俊輔という人形のなかにオウムが入っているのだ。もっともそんな風にしたのは自分である。

バカらしくなってしゃがみこむと今泉と視せんの高さが同じになった。ぼんやり濁ってオレを見てなんかない。この瞳の奥にいるのはただ言葉を繰り返すオウムである。オレは頭を垂れた。むなしい。ぽつねんと溢す。

「むなしい」

垂れ下がった頭に、うなじに、ふさぎもしなかった耳に。今泉のぼんやりとした声が触れた。




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