「星が見えないのだよ」と言った緑色の生真面目さんはごうごうと音を立てる窓の外を眺めていた。季節の変わり目なのか急に降り出した雨はまさしくバケツをひっくり返したような雨で、外の景色は一切見えない。真っ白だ。

「そりゃあ、そうでしょ、こんな雨で星が見えるほうがおかしい」
「そんなことわかっているのだよ」

馬鹿にしているのかと言うように吐き出された声はけれど少し残念そうにも聞こえた。彼は星が好きだとは知らなかった。星占いが好きなことは知っていたけれど、練習で夜遅くなった時だって彼は別に夜空を見上げてなどいなかったし、日が暮れる前にと一番星を競って探したこともなかった。

「真ちゃん、星みたい?」
「べつに」

即座に返事は返されるが、窓の近くからは離れない。何も見えやしない窓を眺め続けるだなんて意味のないことをする性格でもないくせに。思わず、素直じゃないなあ、とため息を吐くと気に障ったのだろうか、緑間が「もういい」とつぶやいた。

「なーにが、もういいのさ。なに、どの星が見たかったの?」

言われたってわかんねーけど。でもとりあえず聞いてやる。カシオペア座とオリオン座しかしらねーよ、オレ。しかし、緑間は頑なで、もういい、ともう一回つぶやいた。

「いいじゃん。星、好きなの?」
「だから、もういいのだよ」
「そうツレねーこと言うなって、ちょーっと待ってろ」

もういい、もういい、という割りに諦めの悪い緑間はその証拠に一切こちらを見向きもしない。口角を下げてむすくれている。まあ、いいんだけどね、だなんて心中呆れながらも最近新調した携帯電話に手を伸ばす。最新モデルではないがそれなりに格好いいデザインのスマートフォンを案外気に入っていた。時代は進化したなあ、だなんて思いながらするすると指で画面をなぞりアプリケーションを探す。目当てのものはすぐに見つかって、あったあったと声をあげると緑間はやっとこちらに視線を投げた。緑間の眉間にはグ、と皺がよっていた。むすくれちゃってまあまあ。そんな彼の気を晴らしてやろうというのだからオレも大概物好きである。

「真ちゃん、カムカム」
「犬を呼ぶみたいに呼ぶな」
「いーからこいって」

ダウンロード最中の画面をひらひらさせて、緑間を呼ぶ。緑間は窓の外に未練をたらたらと残しながら重たい足取りでこちらに近づいてきた。のたのたと歩く姿がなんだか珍しくて笑い出しそうになるのをこらえる。オレの肩が震えているのに気がついたのか、緑間の眉間の皺がちょっとだけ深くなった。そんな怒んなって。声には出さずにからかってやる。今、声に出してからかうと面倒くさくなるのはわかりきっていた。近くまできたものの、なつかない猫のようにあと一歩を踏み出さない緑間の腕をかまうことなく引き寄せて、ダウンロードが完了した画面を緑間に見えるように差し出す。

「なんなのだよ」
「まー、見てろって」

さっそくダウンロードしたアプリケーションを起動させてスマートフォンを緑間に渡した。

「ほら、スカイマップ」
「は?」
「これっていつでも星が見れるアプリ。曇りだろうが朝だろうがそこにある星が見えんの」
「・・・・・・ふうん」
「あ、」
「なんだ」
「んーん?」

緑間がジトリとこちらをにらむのでにんまり笑って流してやるとすぐに視線は液晶にもどる。眉間の皺がなくなった事に気がついているのだろうか。嬉しそうにしちゃってまあまあ。

「真ちゃーん、ちなみにオレの瞳にはなんの星がいますかー?」
「しね」

あらあら、エースさまったら嬉しそうにしちゃって。雨はまだ止む様子はない。依然ごうごうと音を立てて世界を白く塗りつぶしている。けれど、とりあえず傍らのエース様の気は晴れたようで。本当なによりですこと。



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