02:あなたのそういうところが今も好きなんです
「名前ってさ、」
昼食で食堂のキツネうどんを食べていると目の前でカルボナーラを食べてる友人がふと思い出したように口を開く。
「虹村くんと付き合ってたの?」
いつもヘラヘラしているが鋭い友人にあっさり見透かされてしまった。
「まあ、そうだね」
あんまり言わないでよ、と一応釘をさす。もう昔の話なのだ。
「へぇ、あんたってああいう感じがタイプなのね」
「ねぇ、りっちゃんおもしろがってるでしょ」
「そんなことないってー」
ヘラヘラ笑ってる友人を無視し、食べることに集中する。
「ってかなんで別れたの?」
「あっちアメリカに行くしいつ帰ってくるのかわかんないって言われたからかな」
「ふぅん、さすがに遠距離恋愛って距離じゃないもんね」
ふんふんと頷くりっちゃんにこういった話をするのは初めてだ。思えばずっと修造が好きだった私は未練たらたらでしたがらなかったからな。軽薄そうに見えて、線引きをわかってる目の前の友人が今、こうして聞いてくるのは彼女なりに今まで気を使ってくれてたのだろう。
「じゃあ寄り戻すの?」
「ないんじゃないの。修造にも色々あるだろうし今はバスケに集中したいだろうし」
「なんか名前の名前呼びってなんかエロいよね」
しかしどこまでもふざける友人に呆れてため息が出る。あ、怒んないでよーと言う友人を無視し、トレーを片すために席から立った。
隣で難しい顔をしている人の頬に微糖のコーヒーを当てる。普段はブラックだけど考え事をしてる時は微糖がいいって言ってたのを思い出し、食堂からの帰りに買ってきたのだ。昼食を早々に切り上げ、部活のことをするのは彼の恒例行事だった。
「昔っから集中するとアヒル口になる癖直んないね」
「…別にいいだろ」
少し拗ねたように口を尖らせる。ああ、久しぶりに見るな。よく覚えてたな、と言われる。自慢ではないが、修造の癖や好きなものは当時と変わらないくらいに言える。少しストーカーっぽいな、と自分でも思うから言わないけど。
「バスケ部のメニュー?」
「ん、」
どうすっかなー、と伸びをして考える姿を見るのは本当に懐かしい。普通の人より早い時期から主将を務めていた修造はよくこうして授業の合間を縫ってはメニューを考えてたな。
「来月関東大会あんだわ」
「へぇ、」
バスケ部の試合があるならきっとうちの学校の女子はたくさんまた行くんだろうな。確かに普段のチャラついた黄瀬くんが真剣な顔をしてバスケをするのはうちの担任(30代独身、体育教師)もかっこいいと言ってあまりにも彼女が出来ないから生徒たちを心配させてた。
「俺らシードだし午後からだから」
「え、」
「ちゃんと来いよ」
行ってたのは彼女だったからとか考えないのかな。けど女関係に鈍感な彼はあんまり考えなそうだ、と思い出し了承をした。
彼女でもないのに行くのはどうかなと思うけど、それよりも久しぶりに修造のバスケを見たいという気持ちの方が大きい。
「俺、お前いないと駄目だし」
そんなことを平気で言えちゃうあたりが修造だ。普通、女の子にそんな事言ったら期待しちゃうもんだと考えないのだろうか。現に修造の前にいる中村くんがびっくりして2度見してるじゃないか、
「緊張してもちゃんと周りを見るんだよ、」
照れ隠しに出た言葉は随分と可愛くない。
「おまっ、俺も成長してるっつーの!」
頭をぐしゃぐしゃされる。
「頂上の景色見せてやるよ、名前」
昔、よく言ってくれてた言葉と同じだ。修造の自信満々で言うその言葉が変わらないのが嬉しくて思わず修造の頭をぐしゃぐしゃ仕返した。
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