01:ずっとずっと待ち焦がれてました
あけましておめでとう、とクラスメイトに挨拶をする。高校2年冬、もうすぐに受験生が迫っているのに何がおめでたいのだろうと思いながらも挨拶を返す。
「ねぇねぇ!名前聞いた?黄瀬くんウィンターカップ4位だって」
「準々決勝で怪我をして準決勝いいところまでいったらしいんだけどねー」
惜しいよねぇ、との言葉に適当に相槌を打つ。彼のいないバスケは正直言ってあまり興味がない。とはいっても彼の後輩が海常高校のエースであるというのは有名な話で。彼がよく嬉しそうに後輩の才能や活躍を話してくれたのが随分昔に感じる。彼が楽しそうにしていたバスケが好きだっただけで、彼がいなければあまり興味が湧かない。とは言いつつも廊下で会えば元気に挨拶してくれるモデルの彼は見た目と違って誠実だし、海常高校のバスケは応援している。
「それでさ、笠松先輩が引退して2年生から主将出るじゃん!その新主将がうちらのクラスに新しく来る転校生なんだって!」
「へぇ」
「ちょ、名前さっきから全然興味ないでしょ!」
「あれ、ばれた?」
「ちょ、黄瀬くんいるんだよ!黄瀬くんと仲良いくせに」
「黄瀬くんは中学時代の知り合いの後輩だから特に何もないってば」
「やっぱり黄瀬くんって中学時代から有名だったの?」
「うーん、キセキの世代自体が中学で注目浴びてたからなぁ」
「練習とかって見学とか出来た?」
高校出来ないじゃん、源太生意気〜と呟く友人を見る。
「中学も見学出来る雰囲気じゃなかったよ。部員が血とか色んなもの吐いてて誰も見学したがんなかったし」
「帝光ってそんなに練習厳しいの?」
「中村くんおはよう」
あぁ、おはようと返される。席が斜め前の彼が話題に入ってくるのは珍しい。
「少しだけ見たことあるけど地獄絵図って言った方がよかったかな。練習メニューは主将とコーチが話し合って厳しくしてたみたい。どの学年も入部した時より3分の1残ってたら良い方みたいだったかな」
「……」
中村くんが神妙な顔をしている、どうしたんだろう?
「ってか名前よく知ってるね。あんたいつもバスケ部に興味ないくせに」
「……帝光バスケ部は有名だったから」
少し苦しい言い訳をする。目の前の鋭い友人は目を細めながらもそれ以上追求してこなかった。
チャイムがなって先生が話始める。転校生が〜と話しているけどあまり耳に入らない。帰国子女とか中学の頃バスケで主力メンバーだったらしく海常高校でもバスケ部の主将を務めるとかなど先生が説明してる。クラス中、大盛り上がりだけどあんまり興味が出ない。まだ、彼が忘れられないから正直他の人に興味が持てないのだ。
「じゃあ、苗字の隣に座ってくれ、虹村」
「…虹村?」
聞き馴染みある苗字に顔を前の方に向ける。え、ちょっと待って、なんで、
「え、どうして、」
ずっと思い焦がれていた人物が目の前に立っていた。もう二度と会えないと思ってたのに、どうして、
「名前?」
あっちも自分の席の前で固まっている。お互いに目を合わせ、動けないでいると早く座るように修造が促された。へらっと笑い、何年かぶりに教室を味わうんで感動しちゃって〜とか言ってクラスを笑わせている。そういうところも相変わらずだ。
先生の話が全く入ってこない。考えてみれば海常高校に編入して早々にバスケ部の主将を任されるとかそんな人めったにいないじゃないか、しかも帰国子女なんて言ったら限られてくる。けど修造なら可能だ。あの強豪帝光中のバスケ部で1年生から主将をしてきた修造ならば。あの個性溢れるキセキの世代を唯一まとめられた修造ならば。
ふと隣を眺める。少し身長が伸びた気がする。あれから2年もたったのだから、当たり前だけれど。髪は少し伸びたのかな?筋肉も少しついた気がする。
久しぶりに会った修造は私の知ってる修造と少し成長していた。
ずっと考えてると思いっきりデコぴんされる。
「いった、」
「名前久しぶりだな」
会って早々デコぴんかよ、そういうところは変わらない。容赦のないデコぴんは彼の得意技だった。しばらく会ってないのに、彼が呼ぶ私の名前はずっと呼んでいたかのように馴染んでいる。
「……修造」
馬鹿みたいに緊張している、かっこ悪い。
「なんつーか、あれだ、うん」
不器用な彼はあーだの、うーだの考えている。けどなんとなく出すのをためらっているその言葉を私は知っている。
「おかえり、修造」
「ただいま、名前」
久しぶりの再会に思わず目頭が熱くなったけど堪える。多分きっと隠しきれてないけどあっちも呆れたように笑い返してくれた。アヒル口の端をあげて笑う癖は相変わらずだった。
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