02:まだ物語は始まったばかりだ
最寄り駅を2つほど出たところが私の通う高校らしい。秀徳高校、確かかなりの進学校だ。同じく新1年生だろう人がたくさんいるのがわかる。制服がまだ馴染んでない。私はきちんと違和感なく着れてるのか急に不安になった。
「おい、1年」
肩を掴まれる。振り向く時に作り笑いをしてしまうのは職業病だろうか。
「体育館あっちだろ」
「宮地、お前新1年生なんだからわかるわけねーだろ、わりーなこいつ愛想ないんだわ」
「いや、むしろこちらこそご丁寧に教えて頂きありがとうございます」
ニコッと笑えば大抵は愛想が良いと思われる。ああ、とフォローを入れてくれた男の人は笑ってくれたが最初に話し掛けてくれた男の人は眉間に皺を寄せた。まあ、そういう人もいるだろう。全ての人に好かれるなんて無理な話だ。それにもう会うこともないだろうし気にしていたらきりがない。そういう風に人を上手くあしらえるようになったのはアイドルをやってきての長所でもあり短所でもある。
入学式の話が終わり、教室に行く。浮き足だったクラスメイトを見ているとやはり年齢の差を感じる。確かに見た目は15歳だが心は24歳だ。9歳離れているとこうも違うのかと自分でもドン引きだ。元々テンションの高い方ではなかったがアイドルをしてからなおさら一歩引いて物事を見るようになった気がする。
「ねえねえ!」
話し掛けられて咄嗟に笑顔を作る。自己紹介をされ、こちらも名乗る。随分と活発な女の子だな、それが第一印象だ。りっちゃんと読んでほしいと言ったその子に何て呼べばいい?と聞かれたので好きにしていいと言ったらじゃああだ名ね!と言われてしまった。そのあだ名が来るとは思わなかったから面喰らったけど10年くらい呼ばれていたため苗字や名前よりしっくり来る。慣れとは怖いな、と思わず苦笑いした。
「あだ名は何部入るの?」
「え?」
りっちゃんといいだいぶ話しやすい子だ。相手を引き出すのがうまい。そしてサバサバしている。ちなみにりっちゃんは吹奏楽部に入るらしい。
「え、知らないの?1年生って最初は何かしら部活に入んないといけないんだよ。面倒な子とかは大抵文化部に入って1か月後に退部届け出すんだよ!」
ちなみに
「うーん、強いて入りたいと思ったのはバスケ部かな」
理由は単純だ。少しでも両親と同じものを共有したかった。私は両親を知らなすぎる、今さら遅いかもしれないけど少しでも共有できるなら共有したい。
「え、」
「どうしたの?」
「い、いや、うん、頑張ってね」
返答の歯切れの悪さが気になるが何がともあれ人生2度目の高校生活が上手くいきそうで安心する。
「お前バスケ部入んの?」
髪の色が明るい子が話しかけてくる。あ、俺宮地祐也ねと軽く自己紹介をされるのでこちらも笑顔を作り、自己紹介をする。
「うん、そうだけど」
「女マネ続かないって有名だぜ?」
「それは今まで入ってきた人でしょ?」
「おーおー意外と気強いな、」
初対面の相手に随分失礼な人だな、と眉をひそめる。
「あ、そんな怒んなよ。広瀬に友達出来てるからびっくりしてよ」
「ちょっとあんた喧嘩売ってんの?」
りっちゃんが宮地くんを睨む。随分迫力があるな、と感心した。宮地くんがりっちゃんを指差し爆弾発言する。
「こいつ元ヤンな、だいたい友達ヤンキーしかいなかったからてっきり苗字もヤンキーかと思ったわ」
失礼すぎる、なんなんだこの人。ってかりっちゃん元ヤンだったのか…
確かに髪の色が明るい、けど
「じゃあ宮地くんもヤンキーなの?」
「地毛だっつーの!失礼な奴だな!まあ、同じクラスと部活同士よろしくな」
「あだ名よろしくしなくていいよ」
「あ?黙れ、元ヤン!」
「今は足洗ったつーの!」
なんとかクラスメイトとも上手くやれそうだ。それにバスケ部は厳しいらしいけどアイドル時代も散々怒鳴られたし根性は人よりあると自負している。
「あ、ちなみに私元ヤンじゃないから」
「あれ?あだ名同じ匂いがしたのになぁ」
それはない、と真顔で否定すればひどい!って言われる。今は元ヤンじゃない、と必死に説明をする様子に思わず笑ってしまった。随分と久しぶりに笑った気がした。
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