06 分かってるんだよ、そんなこと
「なんや、随分考え事してるみたいやけどどないしたん?」
『……すいません。』
「なんや、自分謝ってばっかやな。まあ、ええわ。真ちゃんって呼んでーな。」
『……平子隊長でお願いします。』
「そない冷たい目で見なくてもええやろ、冗談やっ!」
『はあ。』
「名前ちゃんも大変やろ、入隊して5年目でいきなり移隊になってそこで副隊長やもんなー。ほんますごいわ。」
『いえ、そんな事はないです。私はまだまだなんで。』
いつもと同じような発言を並べて
「そんな事ないやろ、才能だけで副隊長やれるほど甘いもんやないしな。二番隊で部隊長なるんも副隊長になるんも並大抵ならん努力があったからこそやろ。もっと自信持った方がええで。」
『……自信……ですか?』
自信はない訳ではない。それなりに努力してきたつもりだから。けど、それを隠してた方が生意気と思われなくて楽な訳で。
「そうや。随分自信ないんやな。霊術院だって2年で卒業したし、部隊長だって任されとったんやろ?何をそないに不安に思うことがあんねん?」
『私は死神になってから年数がまだ浅いですし、経験も少ないので…… 前任者の方みたいに、部下たちからの信頼もあまりないみたいですし…… どうしても前の副隊長さんと同じようにいかなくて……』
天才なんてあだ名はろくなことなんてない。どれだけ努力したって天才の一言で片付けられるんだから。どんだけ頑張ったって認められない。それなら偽りの自分をいい並べてた方が楽だ。
「……本気で言うてるん?それ。
知った風な口利くんは嫌いやけどな、隊長やってるモンの意見の1つとして聞いてや。
上にたつ者は下の者の気持ちは汲んでも顔色は窺ったらあかん。
好きなようにやったらええ。それで誰もついて来えへんかったらそれだけの器やったっちゅー話や。」
「あと、もう1つ忠告や。自信ないなんて、嘘やろ、自分。むしろ、自分で何でもやった方が楽やー思っとるんやろ?甘いで、自分。自分が強くなれば部下を守れるなんて思ってるほど副隊長は 甘いもんちゃう。それにな、自分を偽ってばかりの奴にな部下は守れへん。」
『……何が言いたいんですか……』
デリカシーもなく勝手に人の事をベラベラ話すこの男は簡単に私の本性を暴いた訳で
「そない怖い顔すんなや。まあ、けどその顔の方がよっぽど名前らしいで。」
『私らしい……?随分簡単に言いますね。』
会ったばかりの人に分かったような事を言われるのは不愉快極まりなくって
「簡単ちゃうで。けどな、本心見せずに優等生演じて、作り笑いを浮かべて。それで自分は楽しいん?そんな生き方しか出来ないなんて随分哀れな奴やな。」
『……』
わかってる、
「部下に心を見せないんも、誰かに頼らへんのも本当はただ怖いだけなんやろ。失うことが。」
『……』
わかってるよ、
「知れば知るほど、好きになれば好きになるほど、失ったときに傷つく。しゃあから人とは干渉せえへんし上手く立ち回って面倒事は避ける。随分、自分は弱いんやな。」
『……』
わかってるんだよ、そんなこと。
その後、他の人が酔い潰れてしまい、私の歓迎会はお開きになった。
結局その後、私は口を開かなかったし、平子隊長も口を開かなかった。
違う、本当は口を開かなかったんじゃなくて、開けなかったんだ。
中身のない誹謗中傷なら聞き流す事は出来るけど、平子隊長の言葉は的を射ていて。
反論なんて思い付かないほど平子隊長の語る私は正論だった。
知らない間に私の心の中に入ってきて、全てを見透かされている。一見、フラフラしている人に見えて一本芯を持っているあなたが私はとても苦手だ。
初めて言われた弱いという言葉は、あまりにも重苦しくって。呼吸の仕方を忘れたみたいに息苦しかった。
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