10月(2017)
ほれ、これ食べてみィ、そう言われて食べた見た目があまり良いとも言えないものを疑い半分で噛る。食にこだわりなど持ってないが口の中に含むとパサつき、甘ったるいそれは美味しいのかもしれないがあまり得意とは言えない。
「なんちゅー顔しとんねん、ほんまにひっどいのォ」
おかしそうに笑うその顔を睨み付ければさらに嬉しそうな顔をする。
「食欲の秋ならもっと美味しいものを用意してよ」
「なんや、知っとんたんか」
「猿柿副隊長があれほど騒いでて知らない方がおかしいでしょ」
ほんまにあの猿は色気より食い気やなァ、と呟く奴を見て少し呆れる。こんなことを聞かれたら殴られるのにそれでもそういうことを言うのだから変わってるのは猿柿副隊長だけではない。
「ほれ、見てみィ!」
面倒だと思いながらも見上げれば中身が黄色い。
「これが綺麗やからやめられんわァ、」
まるで奴の髪の色を彷彿させる色で、当時は呆れ返って見たらノリの悪いやっちゃのォと大きくため息をつかれたものだ。
「あ、隊長!」
隊舎の外を見れば煙が集っているのがわかる。
「……山火事でも起こしたいの、あんた」
「違いますよ!秋と言えば焼き芋でしょ?」
どうぞ、と言われ手渡されたものをかじる。
あなたがいた頃は毎年のように食べていたこの食べ物はあの頃と何ら変わらない味だった。
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