本当の君を教えてよ(霊術院時代)

天才って言われるのはむず痒かった。別に自分のことを天才って思ったことはないし努力は人1倍していると自負している。霊術院1年目で飛び級しているとそれなりに色々な噂は良くも悪くも付いてくるのは仕方がないと分かっていてもあることないこと言われるのは気持ちのいいものではない。せめてもの救いはその好奇の目を向けられるのが自分だけではなくもう1人いるということだ。




「よっ!名前」

挨拶をしても一瞥されるだけ、顔は美人だけどここまで愛想がないのもどうかと思う。とはいえ何かの縁で唯一の同期なのだから仲良くしたいのは本音だ。とにかく話し掛けまくって他の奴らよりは近くなったと思う、多分。
もちろん才能があるのだとは自分でも思う。けどそれなりに努力したから今があるのだ。多分それは名前も一緒だ。あいつはすごい。鬼道、白打に関して名前に勝ったことはない。ただ、唯一俺の方が圧倒的に勝てるもの、それは、

「そこまで!」

あいつの剣が吹っ飛ばされる。斬術に関してはあいつより圧倒的に上だと思う。とは言ってもあいつも他の男には負けないくらい強いんだけど。
顔を歪め、悔しそうにする姿はいつもの涼しげな顔とはほど遠く、本気な様子が伝わる。手からは血豆が見えるし相当努力をしてるのだろう。他の奴等は俺を見て、もう少し手加減してやれよ、と言う。だけど本気でぶつかってくる名前に本気でぶつからないのは失礼だと思う。だからこそ俺はこいつに負けるどころか1度も怪我を負わされたことはなかった。
ただ剣術の練習をする度にこちらを睨む視線は日に日に鋭くなるのはやめて欲しい。正直美人に睨まれるのは嫌いではないけどさすがに怖い。多分俺は嫌われてる。本音を言えば仲良くなりたいんだけどな、なんて少し寂しくも思った。





寮の郵便入れに手紙がある。志波海燕と書かれてる封筒をしげしげ見る。さすがに手紙なら様をつけるもんじゃねーのかな、と思いつつ封を開ける。どう見ても恋文ではなさそうだ。正確に丁寧で整った字を見て誰だかはわかるけど意外だ。封筒を開け中身を見ると簡潔に日時と場所と剣を持ってくるように指示されている。
え、何これ?何がしたいんだ、こいつ?俺殺されんの?それともまさかのあはは、うふふ、を期待していいのだろうか。いや、あいつに限ってそれはねーか。訳もわからない手紙が気になって仕方がない。癪だけど自然と足がその場所に向かっていた。






「よぉ!」

努めて明るい声を出したらいきなり斬りかかられる。もはや恐怖を通り越して尊敬だ、あの時のことそんなに根に持ってたのか。普段お前を冷静な美人って言ってる奴に見せてやりたい。鬼の形相でこちらを斬りかかる姿は冷静も美人も程遠い言葉だ。

「落ち着け落ち着け、」

あいつが突っ込んで来るので止めるために剣を足で蹴りあいつを受け止める。バランスを崩したらしいあいつは俺を押し倒す形で雪崩れ込んできた。

「……落ち着いてるんだけど」

「おま、俺を殺す気か!」

「あんたが死ぬような玉だと思ってんの?」

まるで馬鹿を見るような目をこちらに向ける。10人いたら10人殺されると思うだろ、という言葉を圧し殺し声を出す。

「何で呼び出したんだよ」

「察しなさいよ、馬鹿」

少し照れて言うなら可愛いものの面倒そうに言うこいつは本当に可愛くない。

「相手して欲しかったのかよ」

「あんたに負けたくないの」

子供らしい理由と言葉足らずに思わずため息が出る。

「んながむしゃらにやっても上手くなるもんじゃねーよ」

そうすればムッとした顔をされる。思えば俺はこいつのそういった顔しか見たことがない。

「ったく俺は基本通りにしかやらねぇ奴に何度やっても負ける気はしねーよ。お前は確かに上手いけど手本通りなんだよな、」

これはこいつと戦って実際に思ったこと。こいつの基本通りの形は確かに美しい。だけど名前に合ってるかは別だ。いくら強いと言っても女なのだ。力任せに戦う戦法だと分が悪い。

「お前らしい剣術にしねぇと俺にはいつまでも勝てないぜ」

相手してやるよ、負けたくねーのはこっちも同じだし、と言えばそう来ないとでしょ、とふっと笑われる。あ、この表情は初めて見る。





そこからあいつとは毎日、色々な戦い方で練習した。ちなみに名前が俺に倒れこんできた所を偶然見たらしい奴が付き合ってると勘違いし、噂が絶えず流れた。特に面白がった伯父が散々からかってくるのは勘弁してほしかった。モテないあの人は随分と暇らしい。
名前は名前であんまり噂の類いには興味がないらしく、特に意識もすることはなかった。
そしてあの日以来、俺は苗字名前という人物を詳しく知ることになった。周りの人は彼女を冷たいと表現するけど俺は限りなく生きるのが不器用な人間だと思った。本人は姉ちゃんの復讐のために護邸に入ったと言ってるけど本当は姉ちゃんの無念を晴らしたかったんじゃないのか、と思ってる。天才と呼ばれてるけどそれ以上に彼女は努力家だ。あとは気を許した人間には限りなくわがままだ。













「海燕」

「あん?」

同期であり無理矢理同僚にさせられた女を見る。

「相手してあげるから早く来て」

「なんでお前はそんなに上から目線なんだよ」

相変わらずな様子に少し苦笑いをする。あの果たし状事件と俺が呼んでるやつからずっと2人で修行をしてきた。それは護邸に入ってからも同じだった。

ははは、元気がいいな、と呑気に笑ってる浮竹隊長に名前が挨拶をする。

「お前、挨拶出来るように」

なったんだな、は言えなかった。こいつの蹴りは冗談じゃ済まされない。あまりに重い蹴りにその場にうずくまる。

「副隊長様は随分おしゃべりなのね」

「おま、まじ」

許さねぇ、と小声で言う。あいつ愛川隊長と世間話をしてた時に名前は昔講師の方相手に敬語を使えなくてこっちが冷や汗ものだったんですよー、と俺が言ったことを根に持ってやがる。


「いやぁ、さすが同期だと仲がいいな。微笑ましいよ」

浮竹隊長の目は節穴なのかと大声で聞きたい。隊長、俺はこいつに殺されかけてます。

「ねぇ、あれなんだけど」

「ああ、新技か」

鬼道と白打を掛け合わせた技に挑戦し始めたのは確か二番隊に入ってすぐだった。まあ、技と呼ぶにはあまりにも暴発してたけどようやく少しは形になってたってことか。

「……」

「隊長?どうかしたんすか?」

「いや、あれとかそれで会話が通じるって熟年夫婦の領域だなって」

「冗談は辞めてください。天地がひっくり返ってもありえませんよ」

確かに俺もそれはねぇなと思ったけどそこまで否定しなくても良いのではないか、と名前を見たら早く来て、と言われる




こいつが振り回す数少ない相手というのは大変だけど満更でもない自分がいるのに思わず苦笑いが溢れた。

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