29 自分の心に信号があればいい

「これより隊首会を行う!」

一番隊舎の雰囲気が少し引き締まる。いつものことだけど、いつも以上に緊張するのは、恐らく護邸に少しずつ何かが迫っているからかもしれない。

「第一級重禍罪朽木ルキアを極囚とし、これより二十五日の後に真央刑庭に於いて極刑に処す。これが尺魂界の最終決定じゃ」

中央四十六室の決定より問答無用じゃ、の一言で隊首会は終わった。

違和感の塊ともいえる、この処刑は一体何なんだろうか。前例より行き過ぎな処刑に成す術もなく黙って見ているのは気分が悪い。中央四十六室は嫌いだけど、ここまで極端な判決を下すとも思えない。

そんなことを考えて歩いていたら、前の方が騒がしいことに気付かなかった。

どうやら市丸と朽木と更木が話しているらしい。その3人が仲がいいとは思えない。しばらく見ていると市丸が更木を連れてどっか行くのが見えた。

「カンニンしてや、六番隊長さん!少なくともボクはあんたのコト怒らす気は無かってん!ほんなら妹さんによろしゅう」

相変わらず性格が悪いなと思って瞬歩をして消えてった男たちを忌々しげに見つめる男を見る。

『妹さんの件どうするの?』

そう話しかけたらいかにも不機嫌そうな顔がこちらを覗いた。柄にもなくお節介を焼いてしまう辺りあたしも嫌なやつだ。

『あんたはさ、これでいいわけ?』

「兄には関係のないことだ」

『別に人様の家庭の問題に口を挟むつもりはないわよ。だけど、あたしはこの処刑には反対よ』

鋭い眼差しで睨み付けられる。昔から短気なところは変わらないなと思った。

『間違いなくこの処刑はおかしいわ』

「随分と首を突っ込むのだな、昔でも思い出したか?」

『1度だって忘れたことはないわよ』

「………………」

『それに一応義理とはいえ妹でしょ。貴族とは関係なしに少しでも刑を軽くしてもらえるよう動くのが普通だと思うけど』

「兄には関係がないと言ったはずだ。いくら、同僚といえども処刑を邪魔するのならば、私が兄を始末するぞ」

『そこまで弱くなったつもりはないけど?』

「なんだと?」

「お二人さん、おやめなさいな」

『…………京楽』

「朽木隊長の立場もわかるし名前ちゃんの言いたいこともわかる」

「………………」

『………………』

「浮竹が黙っているとは思えないしね」

『それもそうね』

「…………邪魔をするのならば容赦はしないぞ」

そう言って朽木が瞬歩をしてどこかへ行った。

「めずらしいんじゃないの?名前ちゃんがそこまで首を突っ込むなんて」

『好きで突っ込んでる訳じゃないわよ』

「……………確かに似ているねぇ」

少し険しい顔をして、あんま無茶しなさんな、と一言告げてどこかへ行く。恐らく浮竹のところだろう。






「随分遅かったすね」

七番隊舎に戻ったら黒木が珍しく仕事をしていた。

『朽木女史の処刑が決定したわよ』

「まじっすか!?ちょっとやり過ぎじゃないんすかね?」

『あたしだってそう思うわよ』

「しっかし、いくら死神の力を人間に譲渡したからって席官でもない平隊士を極刑って四十六室も随分と躍起になってるっすねぇ」

らしくねぇっすよ、なんて呟くこいつの一言には同意したくなる。
一体何があったのだろう。
そんなことを考えていたら警報がなった。


急いで裏邸隊が旅禍の侵入について報告してくる。

「旅禍の侵入?こりゃすごいっすね」

『そこでどこに侵入したの?』

「は、旅禍と思われる人物は瀞霊門の外側に落ちたとの報告が」

それだけを報告し、去っていった。黒木と目が合う。

「確かあそこは兒丹坊がいるっしょ?」

『白道門だっけ?』

「あそこは一番厳しいっすよ。なにしろ奴がこの任に就いてから300年、1度たりとも破られたことはないっすからね」

『それを倒すほどの旅禍だったら骨が折れるわね』

「一応見に行った方がいいっすか?」

『白道門だったら三番隊と九番隊が行くでしょ』

「…………そうっすね」

『なに?』

「いや、何か引っ掛かるなぁと」

『…………九番隊は東仙のところよね』

「俺の気にしすぎかもしれないっすけど」

『…………』

「まあ、どちらにしろ旅禍の侵入は無理っすよ」

『…………そうだといいわね』

この時期に旅禍の侵入とは中々厄介だ。朽木女史の件もあるのに、いや、むしろ全てが繋がっているとしたら。
いずれにせよすごく面倒なことになってきた。

『ちょっと外の空気にあたってくるわ』

「いってらっしゃい」





外の空気を吸いながらいろいろ考える。歩いているとなんだか見慣れない2人を見た。急いで霊圧を消して身を隠す。


「ーーーー単刀直入に訊こうか。君の目から見て……彼女は死ぬべきか?」

「!?…………いえ…………質問の意味がよく……」

「妙だと思わないか。彼女の罪状は霊力の無断貸与及び喪失・そして滞外超過だ。その程度の罪での極刑など僕は聞いたこともない。加えてそれに続く義骸の即時返却・破棄命令、三十五日から二十五日への猶予期間の短縮……隊長格以外の死神への双極の使用……どれも異例づくめだ。」

「僕にはこれが……全て一つの意思によって動いているような気がしてならない。」

「……待ってくれよ藍染隊長…………それってどういう……」

「ーーーー厭な予感がするんだーーー……阿散井くん……もしかしたら僕はーーーー」


けたたましい鐘の音が鳴り響き、通達が入る。隊首会だ。内心、舌打ちをしながらさっきの藍染の言葉を思い出す。

自分の予想がどんどん確信に変わっていっている。その事に少しの焦りと興奮が生まれている。




自分の中のなにかが外れたような気がした。

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