28 時計の針がようやく動き始めたんだ
今日は珍しい場所に来ている。六番隊舎だ。
そこら辺にいる席官に声を掛ける。
『失礼、朽木に用事があるんだけど』
「苗字隊長!た、ただいま朽木隊長は隊舎におられません」
『あっそう、じゃあ阿散井は?』
「まだ、起きておられないかと……」
『…………』
新人のくせに寝坊かよ、と内心苛つく。それにしても規律をやたら守りたがる朽木にしては珍しく真逆な性格の副隊長にしたものだ。そんなことを考えていたらとてつもない足音が聞こえた。
挨拶をしてくる席官に挨拶を返すあいつが、副隊長だろう。
話しかけていた席官も知らない間に地獄蝶相手に話し掛けている。正直うるさい。
「何してんだ、てめえは!?」
「痛い!」
思いっきり蹴られた席官を見る。痛そうだ。
「何すんですか、恋次さん!!」
「いいかげん地獄蝶の世話くらい一人でできるようになれ!カスが!」
「あれ、そういえば今日って恋次さん非番じゃ……?」
「囚人の様子見だ、どうだ?」
「……朽木さんですか……相変わらずですよ……昨夜からずっとあのまま……」
『…………そろそろいい?』
「わぁっ!苗字隊長!まだ居られたんですか!?」
『まだ居て悪かったわね』
「馬鹿野郎!すみませんっ!苗字隊長!うちの席官が失礼なことをして!」
『別にどうでもいいわよ。それよりわざわざ非番の日も仕事なんて随分仕事熱心ね。』
「…………朽木隊長なら今隊舎におられないはずですが……」
『朽木は朽木でも朽木女史の方に用事があんの』
「……ルキアですか?」
『そうよ』
「な、何の用事が……?」
『早く、面会させて欲しいんだけど』
出来れば早く面会をしたい。隊長の方の朽木がいると厄介だ。
「わ、わかりました」
長く、暗い廊下を歩く。
「よォ、いつまでヘソを曲げてんだよ、ルキア?メシぐらい食わねーと体持たねえぞ」
「……ヘソなど曲げておらぬ、ハラが減っておらぬだけだよ、副隊長殿」
「……あァ!?何だ、てめえ?俺が副隊長ってコトに何か文句でもあんのか?」
「イヤ別に?私のおらぬ二月ほどの間に随分頑張って出世したな……と感心しておるのだ」
「良いではないか、似合っておるぞ、がんばれ副隊長殿!強いぞ副隊長殿!ヘンなマユ毛だ副隊長殿!」
「殺す!!こっから出てこいてめぇっ!!」
「……恋次」
「あァ!?」
「私はやっぱり……死ぬのかな」
「バカ、てめー、あたりめーだろ、そんなの!てめーなんなスグ死刑だ、スグ!!」
「……………………そうか…………そうだろうな………………」
「バカ、てめージョーダンに決まってんだろ、ジョーダン!!」
「どっちなんだ、一体!?」
「今、朽木隊長が本部に報告に向かっている。そこで恐らくテメーの減刑を請う筈だ。あの人はオメーの兄貴だろ。みすみすオメーを見殺しになんかしやしねぇよ」
「……いや、あの人は私を殺すよ。私はよく知っている、あの人がどういう人なのか。朽木家に拾われて四十余年ーーーあの人は一度だって私をみてくれたことはないよ」
何となく寂しい雰囲気が流れた。朽木の兄の方も妹の方も親しくはない。他人様の家のことに口を出すのも良くないだろう。それより本題に入るのを忘れてた。二人がずっと話していたせいで私は空気だ。
『そろそろいい?』
「苗字隊長!すんません!俺がずっと話していて!」
「……どうして、苗字隊長が、この場所に?」
だいぶ驚かれた顔をされた。まあ、そうだろう。話したこともない他隊の隊長がいきなりやって来ればびっくりもする。
『はじめまして、かな?』
「………………」
『そんなに警戒しないでよ、あんたのことはよく海燕から聞いてたし』
「…………海燕殿……ですか?」
警戒というよりは、気まずそうな顔なのだろうか。何にせよ緊張してるのは確かだ。
『そ、一応唯一の同期だったし。あんたが海燕の死の間際にいたっていうのは浮竹から聞いてたし』
「…………」
『別に、責めてるわけじゃないわよ。あいつが死んだのはあいつの責任な訳だし。』
「それでも、殺したのは私です。」
『本来ならあのくらいの敵ならあいつは倒せたはずよ。私情を挟む敵が相手でも複数で戦うべきだった。それをしなかったのは海燕よ。あんたのせいではない。』
「…………」
『けど、あいつの気持ちも分からなくはないんだけどね』
「…………」
『それより本題に入ってもいい?』
「は、はい」
『あんたが、死神の力を譲渡した際、あんた死神の力を失ったわね?』
「は、はぁ」
『死神の力を失った際、義骸をあんたに渡したのは誰?』
「………………」
恐らく口止めされているのだろう、だがあれだけの義骸を作れる人は私はただ1人しか知らない。
『質問を変えるわね。あんたに義骸を渡したのは浦原喜助よね?』
「…………!?」
予想は的中か、まあ、あの人を知ってる人なら分かるだろうけど。
ただ、謎なのはあの義骸だ。どうして死神の力を失わせるような義骸を朽木ルキアに渡したのだろうか?
『もういいわ、ありがとね』
「…………お役にたてたなら光栄です」
『海燕の言ってた通りね』
「…………何がですか?」
『あんた、昔のあたしにそっくりよ。』
「…………はぁ」
『なに、メソメソしてんだ、オメーは生きることを考えろ!』
「…………?」
『って海燕なら言うんだろうね』
「海燕殿はお優しい方ですから」
朽木の表情が少し優しくなる。あまり、上手く溶け込めていない部下をよく心配してたなぁと思い出す。
『少しでも、減刑になることを祈るわ』
「……ありがとうございます」
昔の自分を見ているようだった。上手く溶け込めず、自分を作って。助けてくれるのを待っているところが。
阿散井と一緒に出てくる。出てくるとすぐに見覚えのある男がいるのがわかった。まあ、霊圧で外にいたのは分かってたんだけど。
『あら、朽木隊長』
「一体何のようだ」
『あんたには関係ないでしょ』
「あれは私の家の者だ」
『家の者なら妹のことを庇いなさいよ。』
「四大貴族である私が規則を守らなくて誰が守るのだ」
『あたしなら、』
朽木を真っ直ぐ見つめる。
『貴族の座も隊長の座を捨ててでも大切な人は守りたいけどね』
「…………随分と愚かなことを言うのだな」
『愚かねぇ』
「…………何が言いたい」
『失ってからじゃ遅いのよ』
「…………」
『じゃあね』
らしくないお節介を焼いてしまった。それも同期を思い出してしまったからだろう。
走り回って無茶してでも処刑を止めようとするんだろうな、と今はいない同期を思い出す。
ただ、喜助さんがこの事件に関わっていると知った今、処刑を止めなければならない。恐らく110年前の事件に繋がっているはずだ。それだけじゃない。藍染が動き始めたという可能性もある。
あの事件からようやく一歩動くんだ、という期待感と全てを知るのが怖いという恐怖感が入り交じる。
処刑を止めるということは即ち藍染との決闘になるだろう。
復讐をして死んでいった同期のことを馬鹿なやつだなぁと思った半分、きっと自分も同じ事をするだろうな、と思った。
昔、海燕がうちの隊長の持論は命を守る戦いと誇りを守る戦いがあると言っていた。けど、俺は両方同じことなんじゃねえかなぁと思う、結局は心を守ってるんだよ、と言っていたのを思い出す。
当時は、くさい、と返したがその通りだと思った。
これから来る戦いは恐らく、誇りを守る戦いだろう。下手したら死ぬかもしれない。それでも、戦うのはあなたが好きでたまらないからだ。
そんな私を見たら笑うかな、なんて考える。
そんなこと考えたって無駄なんだけど。
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