24 ずっとずっと恐れていたんだ

あれから10年の月日が流れた。10年の月日とはあっという間に感じる。私もそこそこ副隊長として板についてきた。


「おはようございます、副隊長」

『おはよう、黒木』

「そういや隊長が副隊長のこと探してましたよ?」

『…………隊長が?』

「ええ、何だか流魂街の変死事件についてだそうです」

最近何だか物騒ですよね、面倒に巻き込まれないようにしないと、と護邸十三隊の三席とは思えない暴言は無視しながらあることを思い出す。
気にかかるのは10年前のあの男のしていたことで……

「……長、副隊長!!」

『…………うるさいなぁ』

「だから隊長呼んでますって!」

副隊長ってけっこう人の話を聞いてないですよね、とかました黒木を1発殴って隊長のところへ向かう。



『隊長、失礼します、苗字です。』

「おう、入れ」

隊首室に足を踏み入れる。そこには中々厳しい顔をした隊長がいた。

『どうかされましたか?』

「オメーに一つ頼みがあってな」

『…………流魂街の変死事件ですか』

相変わらず察しが早いなと隊長が苦笑いする。

「最近、流魂街の民が消える事件が発生しててな、その現場を見てきて欲しいんだ」

『…………蒸発とは違うんです?』

「いや、俺も卯の花さんから聞いたことだからよくわからねえんだが、服だけが残して跡形もねえみてえなんだ」

『………………』

「そんでもって現場に行って欲しいんだな」

『十二番隊の専門じゃないですか……』

「まあまあ、そんなこと言わずによ、オメーなら出来んだろ」

面倒だからって十二番隊に押し付けんなと注意される。
もちろん事件の調査は面倒だからいつも嫌なんだけど今回は少し違くて……

いつもと違って違和感を感じる。確証はないんだけど、、、


『わかりました。ですが、少しこの事件に関してはあまりにも違和感があります』

「まあ、確かにな」

『万が一ものために黒木を連れて行きたいんですが』

「オメーにしては珍しいな」

『万が一、私に何かあったときに護邸に伝達する人が必要かと』

「…………わかった」

気をつけて行ってこい、と言われて気を引き締めた。




「あ、副隊長、話終わったんすか〜?」

『これから流魂街の調査』

「え、副隊長いってらっしゃい」

『いや、あんたもだから』

「まじかよ!」

『さっさと準備して』

文句を垂れる黒木をよそに事件のことを考える。この問題は護邸が考える以上に深い問題だ。








「随分考え事してるんすね」

調査に向かっている途中で黒木が話しかけてきた。

『………………』

「今回の事件、まあ、謎の変死事件と言われてるんすけどなんかきな臭いっすよね」

『…………きな臭い?』

「まあ、勘なんすけど」

そんなに副隊長が反応するとは思わなかったっす、いつも話聞いてないんで、なんて失礼なことを言ったこいつを横目で見る。こいつは意外と頭が良いやつだ。仕事はやたらさぼりたがるけど。


「副隊長はどう思ってるんです?」

『護邸の中の人物が起こした事件だと想ってる』

「すげーはっきり言いますね」

『気を引き締めろよ、この事件下手したら死ぬぞ』

「はい」






事件の現場にたどり着いた。確かに、服の痕跡が残っているだけで、ほかは何もない。特に証拠も何も見つからない。本当に不可解な事件だなと考えていると、

「副隊長!!」

黒木の切羽詰まった声にようやく何が起こっているのか気付いた。
けど、気付いたときにはもう、遅くて……



『逃げろ、黒木!お前の敵う相手じゃない!』



霊圧は全く感じなかった。誰に斬られたのかもわからない。気がつけば、即死は免れたものの、戦える状況ではない。戦いにおいて、ここまで致命傷を喰らったのは初めてだ。いや、ここまで敵に近づかれたのにその気配に気づかないなんて…………



考えている間に、意識を失った。













身体の腹部が痛い。どうやら生きているみたいだ。少し目を開ける。

「目は覚めましたか?」

皆さんとても心配なされていましたよ、と告げられる。

『…………はあ』

「致命傷は免れたものの傷は重症です。しばらくは入院してもらいます。」

『…………黒木は?』

「彼は怪我をしていませんでしたよ」

あなたをここまで運んできたのは黒木三席ですし、とにこやかに答える卯の花隊長とは裏腹に舌打ちが出た。自分の不甲斐なさが悔しい。せっかく任された任務を遂行するどころか、部下に迷惑をかけた。情けない。




「何を助かってんのに舌打ちをしとんねん」

聞こえてきたのは、聞き慣れた声な訳で、

真子が入ってきたのを見て、卯の花隊長が席を外す。迷惑かけたなァ、と呟く真子に、無事で何よりです、と卯の花隊長が返した。


『…………真子に迷惑かけてないんだけど』

「アホぉ、どない心配したと思とんねん」


四日もずっと寝られてたらたまらんわ、と呟いて、真剣な顔で見つめ返された。その目は苦手だ、思わず目を反らした。だけど真子が来てくれて安心している自分もいるわけで…………


『この事件、どうなるの?』

今一番気になることを聞く。この任務は想像以上に手強い。いくら隊長格といえども命を落とす可能性もある。

「病人はいらん心配しなくてええ」

『質問に答えてよ』

「拳西が今調査に行っとった」

『……何よ、その言い方』

「拳西たちの霊圧が消えてなァ、今から俺らも現場に行くねん」

『あたしも行く!』

「今のお前が行って何が出来んねん、おとなしく寝とき」

すぐ戻ってくるわァ、何ていつもの調子で言う。

「…………何や、そない浮かない顔して」

『………………』

戦いに行く人にする顔ではないことは重々わかっている。だけど、不安は拭いきれなくて…………

そんな私を見かねた真子が、甘い口付けを落とした。

「必ず戻ってくる」

私の頭をゆっくり撫でて、真っ直ぐに
見つめてくる。

「しゃあからそない顔しなや」

名前は笑っている顔が一番似合うで、なんてくさいことを言う。

そんな言葉に笑いが込み上げてきた。

『真子、言ってることくさい』

素直になれない私から出てきた言葉は可愛くないもので…………

「失礼なやっちゃなー」

私の言葉に笑いながら答える。この顔を見るのがとても好きだ。

じゃあ行ってくるで、と口付けをもう一度落として真子は病室を出ていった。








朝になっても真子たちは戻ってくる気配はない。結局一睡も出来ないまま朝を迎えてしまった。
日が昇り始めた頃、黒木が血相を変えて私のところにやってきた。

「副隊長!」

『…………』

「愛川隊長、殉職との報せが入ってきました」

『!?』

「また、愛川隊長を含め鳳橋隊長、平子隊長、六車隊長、矢胴丸副隊長、久南副隊長、猿柿副隊長もまた殉職との報せも…………」

『…………』

「この事件の主犯格の浦原喜助が現在逃亡中、また、浦原の逃亡に手を貸したという事で四楓院夜一も逃亡中とのことです。」

耳に入ってくる情報は到底信じがたいものばかりなわけで、

気がつけば、黒木の制止も振り払い、死覇装を急いで着て病室を出ていた。向かった先は一番隊なわけで、



勢いよく扉を開ける。

「苗字副隊長!?君は動けないはずだろう?」

浮竹隊長が驚いた声をあげる、皆、驚いて私を見つめる。

そんな事も意に介さないで、向かった先は総隊長のもとで、



『いったいこれはどういうことですか?』

「……黒木三席に聞いたはずじゃ」

『そんな、喜助さんが今回の事件の黒幕だなんて、有り得ないはずだ!』

「苗字!口を慎め!」

大前田副隊長から注意が飛ぶ。

『うるさい!黙れ!』

「落ち着きなさい、苗字副隊長」

享楽隊長が制止するけど、そんなのも気にしてられないくらいに興奮している。

『絶対に何かの間違いです、きっと違う黒幕がいるはずです!』

そんな風に言える根拠はきちんとある。

『本当に、浦原隊長がこのような事件を起こすなら、もっと計画的にやるはずだ。こんな風に自分の罪だとわかるようにしない!』

皆の目が見開いているのがわかる。

『私にもう一度調査させてください!浦原隊長がこのような罪を犯すはずはないし、四楓院隊長も同じです!』

叫んでいて傷が開く。けどそんな事なんか気にも留められない。

『それに真子は死んでない!必ず戻ってくるって言いました!』

「名前、落ち着け!」

『放して!海燕!』

「今お前がすべき事くらいわかってんだろ!」

『あんたに一体あたしの何がわかるっていうのよ!』

皆を困らせてるということくらいわかってる。

『いきなり大切な人がいなくなるなんて、あんたなんかにわかるはずないでしょ!』

海燕が困ったように私を見つめる。当たり散らしていることなんてわかってる。

「副隊長!」

『…………黒木』

「副隊長がすべきことは七番隊を守ることです!」

『………………』

「必ず生きてますよ、平子隊長は」

私を落ち着かせるように優しい声で諭す。その事でようやく今、自分の置かれてる状況がはっきりしてきた。

『………………』

「そんな情けない事言ってたら平子隊長に笑われちゃいますよ」

『………………』

「きっと、また、いつものようにヘラヘラした顔で戻ってきます」

『………………』

「それに副隊長が浦原隊長や四楓院隊長の潔白を晴らさないで誰が晴らすんです?」

『………………黒木』

「俺はあなたの味方です。あなたの力になりますから、だから副隊長」

黒木がこれまでにないくらい真剣な顔で見つめる。

「前に進みましょう、一緒に」

頭の中がごちゃ混ぜになっている。現実に起こっていることがあまりに受け入れがたいもので、
あまりにも突然なことで受け入れられないんだ。いや、違う。

あまりにも辛すぎて受け入れられないんだ、あなたがいない日常なんて。

けどね、進むしかないんだ。


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