23 緩やかに侵食していきます

久しぶりに1日休みだ。そもそも護邸に入ってから1日も休んでないかもしれない。真子には仕事をしないようにと口酸っぱく言われた。随分信用がないなと少し苦笑いがこぼれたけど、心配をされてるみたいで少し嬉しい。




仕事をしないと言っても修行はする訳で。よく昔、海燕と修行をした流魂街の3番地に行った。今でも修行する時はここの場所が多い。
懐かしいなと少し思いを馳せてたら見覚えのある人を見つけた。




その男はよく知ってる姿な訳で、



霊圧を消して奴に近づく。少し離れた所には人影が見える。様子がおかしい。
これは誰なのだろう。私の知ってる男だけど知らない。あんな冷徹な瞳を持っているなんて、知らなかった。

少し離れたところには残虐な殺され方をした流魂街の民がいて、それを見て何とも思っていない姿はとてもいつもの姿とはかけ離れている。



流魂街の民に手を出すことなんて、死神にとって法を破ることだ。
ましてや殺すことなんてもっての他だ。





たくさんの疑問が頭の中に浮かぶ。

何故これほどまでに残虐なことが出来るのか。
何故流魂街の民はここまで不自然な死に方をしているのか。
あいつは一体何をしたいのか。
何故これほどまでに強い霊圧を持っているのか。



1つだけはっきり答えが出ているものがあるとしたら、
それは今の藍染惣右介には勝てないということだ。

足がすくむ。
こんな経験初めてだ。





しばらく動けないでいたらいつのまにか藍染惣右介がいなくなってた。

何の目的かはわからないけど、奴が何かを企んでいるのはわかった。






『隊長おはようございます』

「おう、昨日は休めたか」

『はい。仕事を休んでしまってすいません』

「気にすんな、オメーは働きすぎだよ」

今度からもう少し休めと注意をされておとなしく話を聞く。

「ついでにこれ一番隊に届けといてくれ」

『……極秘書類ですか』

「ああ、最近流魂街の民の喧嘩が激しくてな」

『…………喧嘩?』

「ああ、本当に参ったぜ。それくらいの元気があれば死神にでもなってその力を生かしてもらいたいもんだな」

俺たちの仕事が増えて困るぜと隊長は苦笑いしていた。
書類を見ると流魂街の見回りを強化する旨が書いてある。



書類を届けている途中で色々考える。恐らくこの事件は私が昨日見たことと関係があるのだろう。だけど、その証拠はない。きっと私が昨日行ったところだけではなくもっとたくさん被害があるのだろう。けど今の私には何も出来ない。そう思うと歯痒くてたまらない。

その気持ちと同じくらいに恐怖の気持ちもある。藍染惣右介は一体何者なのだろうか。
何を考えて何を企んでいるのか。私には全くわからない。

藍染が何かを企らんでいると知ったとき、真子はどうするのだろうか。
真子は藍染を止めるのだろう。今、現段階で真子は藍染を見張っているのだから。

最悪の事態を今は考えたくない。
ようやく手に入れた大切な人なのだから。


書類を届け終わって歩きながら色々考える。

「やあ、苗字君」

『藍染副隊長』

「苗字君も書類を届けに来たのかい?」

『ええ』

「最近は物騒な事件が多いからね」

困ったように眉毛を下げる姿を見ても昨日の冷徹な瞳の印象が強く残る。

『…………藍染副隊長はどう思いますか』

「何がだい?」

『本当に流魂街の民が喧嘩をしていると思いますか』

「うーん、まだ現段階ではわからないけど、流魂街の民の殺されている人や怪我をしている人の傷を見ると荒い。それを見ると流魂街の民の中でも霊圧の強い人が殺したと考えるのが妥当かな」

『そうだといいですよね』

「どういう意味だい?」

『もし死神がやったとしたらとても緻密で恐ろしい計画だと思うので。流魂街の民の仕業にするよう仕向け、自分の本質を隠す殺しかただったと感じたので怖いなと。』

「…………」

『すいません、考えすぎてすよね』

「いや、驚いたな。そんな風な考え方も確かにあるかもしれない。」

『私の考えすぎであって欲しいんですけど。』

そうだね、と眉毛を下げながら言うその姿を見れば普通の人なら良い人だと思うのだろう。



『もし、これが死神がやっていることだったとしたら』

藍染が私の方を見る。

『私が絶対にとめてみせる』





恐らくこの男は私の言いたい事を全て理解しているのだろう。
もう何も守れなかったと泣くのは嫌だ。
もう2度と大切な人を失いたくない。

藍染を見据えてはっきりと告げる。

『今度こそ必ず私が守る』




藍染が驚いたように私を見る。その後すぐに笑いかけた。

「それはすごい頼もしいことだ」

藍染の薄ら笑いがすごく不気味に思えた。




定時後に真子のところに行った。お昼休憩はいつも会ってる。けど定時後に会うときはいつも約束して会うから珍しかったんだろう。いつもより間抜けな顔をした真子が残業と戦っていた。


「何や急に会いたなったか?」

『冗談は顔だけにしてよ』

「そないに嫌かこのイケメンな顔が……」

『相変わらずだなー真子は』

「なんやねん、急に?」

『いや、無性に会いたくなっただけ』

「…………」

『…………どうしたのよ』

「いや、随分らしくないことを言うんやなって…………」

『…………ねえ、真子』

「何や?」

『真子が居なくなるのは嫌だよ』

驚いたように目を見開いた真子がまっすぐ私を見た。そしたらすぐに真子が笑って冗談めいたように

「そないなこと言うてもらうなんて幸せもんやな、俺は」

そう言って私にキスをして抱き締めた。

「何があっても名前を一人にしいひんし、守ったる。しゃあからな」

私の前髪をかきあげてまっすぐ私を見る。

「名前には笑ってて欲しいんや」


やっぱりこの人には叶わないなと思う。
気づけばいつもの私に戻ってて、、、

本当は心にある不安を取り除いて欲しかったのかもしれない。
あなたの腕の中は暖かくて、私を安心させるには十分すぎるほど頼もしかった。

『あたしと真子だったらどんな敵が来たって無敵だよね』

そう言った私に、せやなと 笑いかける。
出来ればこの日々を私から奪わないで欲しいと誰に祈るかはわからないけど、心からそう思った。

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