21 色んな貴方が知りたいの
今日は夜一さんと修行をしている。前に七番隊舎の裏で砕蜂と修行をして隊舎を半壊させたという失態はとりあえず忘れることにした。
お互い仕事が定時前に終わる日だったので、夜一さんに頼んだところ、快く申し出を受け入れてくれた。相変わらず、面倒見がいい人だ。
「名前、そろそろやめにするぞ」
気がつけば日は暮れかかってて、
『わかりました。今日はわざわざ時間を割いていただき、ありがとうございます。』
「相変わらず固い奴じゃのー、わしが好きで修行を見てるのじゃから礼を言うでない。」
『はあ』
「それより、この後お主暇か?」
『まあ、予定は何も入ってませんけど』
「なら、ご飯を食べに行くぞ」
私の有無を聞かずに夜一さんはもう歩き始めてて。
別に行きたくない訳ではないから、夜一さんについていく。
「いやー、まさか本当にお主がついてくるなんて思わなかったのぉ」
『……そんなにノリが低いんですか、私?』
「何を今さら言うておる?まあ、そんな事はどうでもいい。それより平子とはどうじゃ?」
『今日は昼御飯を一緒に食べました』
「そんなことを言うとるのじゃない。お主平子とはどこまでいったのじゃ?」
『…………昼御飯とか食べに行きますけど』
「お主それ本気で言うておるのか?」
『…………私、ふざけてないですよ』
目の前の元上司でもある師匠の顔がひきつっている。なんでそんな顔をされないといけないのかよくわからない。
「わしが言いたかったのはな、情事をしたのかと聞きたかったのじゃ」
すごいストレートとな言い方に半ば動揺する。
『…………じょ、情事ですか?なんで?結婚もしてないのに?』
「今時、婚前貞操などほぼないじゃろ」
若干呆れたような顔をされたが、あんた仮にも四大貴族の人だろと思った。 だけどそれ以上に動揺している。
『…………恋仲になったら、そんな事しちゃうんですか?』
「男は欲望の塊じゃからのぉ。しかし、まだ平子がお主に手を出してないとはのぉ。」
意外じゃなぁと呑気に答える目の前の人は、私の事をよそに酒を浴びるように飲み始めた。
そんなに真子は女の人に手を出すのが早いのだろうか……
確かになぁ、真子が私と付き合ってからも告白されてるところは何度か見てきた。
真子は優しいし、空気も読めて場を盛り上げることが上手だ。
それに比べて私は冷たいし、愛想もないし、素直じゃない。やばい、考えてたら悲しくなってきた……
そんな気持ちを振り払うかのごとく私もいつも以上に酒を煽った。
いつもより気持ちがいい。気分が高揚してくる。
「名前、お主飲み過ぎじゃ」
『そーんなことないですよー』
酒を飲む手がやめられない。それどころか、どんどんペースがあがってきた。
『焼酎もう一本追加してくださーい』
「やれやれ、参ったのぉ」
『ほら、夜一さんも飲みましょーよ。
あ、もう一本追加ね』
「…………駄目や」
『ようやく来たか、平子』
「おいおい、嘘だろ……」
「名前さん、お酒強くないんで普段はあんま飲まないんすけどねー」
「言われてみればそうじゃのー。まあ、そもそも酒の席にいることがない奴じゃからのぉ」
「じゃあ何で飲ませんねん……!」
『ちょっとぉー!!まだ、飲むってばぁ』
「駄目に決まっとるやろ!夜一!こいつ持ち帰んで」
「そうか、じゃあよろしく頼んじゃぞ」
見たら、夜一さんを含め隊長や喜助さんがニヤニヤしていた。
『えー!よーるーいーちーさーん!まだ飲みたーい!真子となんか帰んなーい!』
「何を言うとんねん、もう自分ベロベロやないか。さっさとおとなしく帰るで!送ったる!じゃあな!」
私をおんぶした真子はさっさと店の外に出た。
『ちょっとー!離してよー!』
「やかましっ!おとなしくしとき」
『…………そんな事他の女の子にもしてきたの?』
自分で質問しときながら恥ずかしくなってきた。けどこんな質問できたのはやっぱり酔ってるからだろう。
何だか背中が小刻みに震えてる。
笑いを噛み殺したように話し出した真子は、
「…………なんや、嫉妬してるん?」
『私が?する訳ないじゃん!』
「そんなすぐさま否定せぇへんくてもええやろ…………」
『真子は女の子だーい好きだもんね!女の子とあーんなことやこーんなこともたくさんしてきたんでしょ?』
「アホっ!何っちゅーことを大声で言うとるんや!」
『平子隊長がモテモテなんてムカつくー!!真子なんてぶっさいくに生まれてくればよかったんだー!!』
「…………随分ご機嫌斜めやなァ」
『真子は私のこと抱きたくないの?』
らしくない事を聞いてしまうのは酔っぱらってるから。言い訳を作ってしまう自分が情けない。
「…………随分気にするんやなァ」
『だって、真子は欲望の塊なんでしょ?』
「…………誰から聞いたねん、そのデタラメ」
呆れたように止まって私を見る。
『真子ってずるい』
「今度は何やねん」
『私ばっかり真子が好きなんだもん』
はァって大きくため息をついた真子が私を見る。
「あんましそないなこと言いなや」
『…………私のこと嫌いになっちゃった?重い女って思ってる?わがままばっかり言うから嫌?』
質問が矢継ぎ早に出てくる。そんな私を見て真子が、ほんまアホやなァと呟いた。
「随分知らないんやなァ」
『何をよ』
「俺がお前に惚れてるいうこと」
『…………恥ずかしくないの』
「恥ずかしいに決まっとるやろ…………しゃあけど俺は随分名前ちゃんに信頼ないみたいやし」
『それでどうして言っちゃ駄目なのよ』
わざと話題を逸らしたのは恥ずかしくなってきたから。真子を信用してないんじゃない。ただ自分に自信がないだけだ。
「抑えきれんなるやろ」
『なにが?』
「もうええわ、今夜は俺の部屋行くで」
『どうして?』
「わがままなお姫さんの要望に答えたらんないかんしなァ」
『え?』
「今夜は眠れるなんて思いなや」
『…………お手柔らかにお願いします』
そんな私を見て貴方が笑う。
真子の近くにいればいるほど私はどんどん欲張りになっていく。そんな私のわがままを受け入れてくれる貴方はどこまでも私に甘い。
幸せを計れる秤があったらその日は私の生きてきた中で一番幸せだったかもしれない。私はきっとこの日を一生忘れないだろう。貴方もこの日を一生忘れないで欲しい。わがままばっかりでごめんね。
そんな事を思いながら意識を手放した。
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