20 願わくばこの幸せがずっと続きますように

「あ、あの!苗字副隊長!」

『…………誰?』

いきなり女の子たちの隊員が話しかけてきた。七番隊には女の子の隊員はいないし、かつての二番隊の隊員でもない。全くもって顔の知らない子たちだ。
あまりにも怪訝そうな顔をしていたのだろう。焦ったように、その女の子たちは自分が五番隊の隊員であることを名乗った。

『それで、何か用でもあるの?』


「苗字副隊長ってうちの隊長と付き合ってるんですか?」

「最近よく、五番隊に足を運んでらっしゃってたのを見てて」

「すごく良い雰囲気だったし、お似合いだなぁって」


その手の話か。女の子は好きだよなぁって思う。私にしたら他人様の恋なんて全くもって興味を持てないが。

『付き合ってるよ』

別に隠しているつもりはないから正直に話す。そしたら女の子たちは、やっぱりっ!とか言って盛り上がっている。女の子たちは礼を言い、どっかに行ってしまった。私も仕事のために七番隊舎に向かう。

この話をしたのは朝の話で、今は昼の少し前なんだけど、人の噂とは早いもので。答えてほんの数時間しかたってないのに、相当広がっているみたいだ。

しかも、今日に限って書類届けの日だ。何だか嫌な予感がする。仕事である以上やるのだが、本当に嫌な予感しかしない。

案の定、予感は当たってて。海燕なんかはニヤニヤしながら、お前やっぱり好きな人いたんじゃねーか、なんて言ってきた。もちろん、顔面にグーパンチをお見舞いしてやったが。
十二番隊では、猿柿副隊長には、あんた男見る目なさすぎるやろ、天才はやっぱり訳わからんわっ!なんて言われたし、喜助さんには、名前さんって女の子だったんすね……って言われた。若干イラついたがかつての上司だし、一応同僚だ。グーパンは止めた。

どこの隊に行っても付き合ってるのかどうかを聞かれたし、二番隊なんか行ったら盛大にお祝いをされた。夜一さんなんか、いつでも相談に乗るとまで言ってくれたが、この人にはきっと頼まない。逆に大騒ぎになりそうだ。断ったら断ったで砕蜂はうるしいし、大前田副隊長なんか、仕事が恋人だと思っていたと真顔で言われた。
少し照れ臭いが、皆に心配されてたらしい。気が付いたら笑っていたらしく、皆驚いたように私を見てた。








最後は五番隊だ。何だかんだ最後まで残ってしまった。別に行きたくない訳じゃない。もしかしたら、一緒にお昼ご飯をたべれるかな?なんて少し期待してるし。


『失礼します、七番隊副隊長の苗字です』

入ってもいいよ、といつもと違う声が聞こえる。藍染副隊長に促され隊首室に入った。いつもなら、真子が言ってくれるのに。


入ってみたら原因がわかった。真子の周りには多くの隊員に囲まれていて、


「どうやってあの難攻不落と言われてた苗字副隊長を落としたんですか?」

「やっぱり告白は平子隊長から?」

「いいなー隊長。あんな美人と付き合えて」

「隊長、中々やるなぁ」

「お前らさっさと仕事に戻りなや……」

「隊長、噂の苗字副隊長が来ましたよ」

「惣右介!助け船出すの遅いわ!!ってか名前!?」

『この書類今日中までですので』

わかったわァと逃げるように判子を探しにその場を去った真子のせいで、生温い視線を一斉に浴びている。何だか居心地が悪い。

「苗字副隊長、告白は平子隊長から何ですか?」

「こらこら、苗字君は忙しいんだから。仕事の邪魔はしてはいけないよ。」

随分今日は質問されるなと思ってたら、藍染副隊長が部下の一人に注意をした。
なんで皆、興味津々なのはわからないが、別に隠しているつもりはない。

『私からだけど』

その場が凍ったように静まり返った。

「え、それは本当かい?」

藍染副隊長がびっくりしたような声を出す。何だかんだこいつも興味津々なんじゃねえかと思いながらも

『ええ、そうですよ』

「じゃあ、苗字副隊長は本当に志波副隊長じゃなくて平子隊長が好きなんですね?」

なんでいきなり海燕が出てくるんだよ、と呆れる。でも何だかんだ言ってもあいつは女子から人気だったような気がする。優しくて、面倒見もよくて、イケメンだと皆言ってた。優しいのはまあ、分かる。面倒見が良いのは確かに当てはまるだろう。だけど、イケメンとは思った事はない。恐らく、目の前の女の人は海燕が好きなのだろう。


「都君!」

藍染副隊長から注意を受けて、すぐさま謝ったこの人を見る。
そういや、この女、朝にも会ったなと思い返していると、

「……いきなりごめんなさい。あの、私ほんの数ヵ月だけだったけど、霊術院で同じクラスだったの覚えてる?」

『…………覚えてない』

相当失礼な事だけど、事実だ。霊術院の頃の自分の酷さに苦笑いした。


「あはは、そうですよね?苗字副隊長と志波副隊長はすぐに、飛び級してしまいましたし……」

『あたしは覚えてないけど、あいつなら覚えてるんじゃない?海燕はあたしと違って真面目な奴だし。』

「すまないね、苗字君。うちの隊員が失礼なことを聞いてしまって」

『別に気にしてませんよ。平子隊長は皆さんに慕われてるみたいですから、いきなり私みたいなぽっと出と付き合うなんてことになって隊員の皆さんが心配に思うのも無理はないですし』

「…………自分、それ本気で言うてるんか……」

『戻ってきたんですか?』

「そらなァ、可愛い彼女さんがわざわざ来てくれたんやしなァ。」

『それでは私はこれで』

「ほんなら、自分ら昼飯とってきぃや」

真子の一言で皆がぼちぼち動き出す。

『じゃあ、仕事頑張って』

「アホか、俺らも昼飯食べに行くで」

『ふーん、仕方ないから行ってあげる』

「ッは、可愛いのォ名前ちゃんは」

『ムカつくなぁ、それにしても随分と隊長さんは慕われてるんだね』

またもや呆れたような顔で私のことを見る。さらに深いため息までついてきた。

『なんなのよ』

「いやー、鈍感やなァって思っただけ……いたたたたァッ」

ちょっとムカついて足を思いっきり踏む。そしたら、随分痛そうな反応をされた。それを見て私が笑って、真子も笑い出す。





すっごく幸せよ、なんて事は言わないけど目の前のあなたに少しでも伝わりますように。
目の前のあなたが幸せでありますように。


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