19 君の好きなところなんて星の数ほどあるよ

いつから好きになったかなんてよう分からへん。

最初に会うた時は、年頃の女の子いうんに、えっらい尖ってて姉ちゃんの復讐のために生きとる感じがした。
まあ、そもそも霊術院で少し勉強したくらいで乗り込んでくるってどないな神経しとんねんって呆れもあったしなァ。
そんでも、霊術院で少ししか学んでない言うにはあまりにも強すぎたし、天才と言われてるだけあって自分に自信もあったんやろ。
しゃあけど、剣を持ったばっかしの名前には復讐なんかまだまだ早いわけで、いくら強い言うても殺すことに対する覚悟がなかった。
それもそうや。姉ちゃんはえっらい平和を願ってて、争い事が嫌いやった訳やし、姉ちゃんが自分のために復讐をしたって喜ぶ訳ないしなァ。
そんでも、そんでも復讐せないかんと、志半ばで死んでった姉ちゃんがあまりにも報われんいう苦しさがあったんやと思う。
当時名前に対する感情は独り残された可哀想な妹やという同情と、隊長である俺がこの悲惨な事故を未然に防げなかったという申し訳ない気持ちやった。





それから7年後、ラブん所の副隊長になったという話を聞いた。名前を聞いた時は、あん時の奴かァくらいやった。
しっかし、霊術院を2年で卒業して二番隊の席官として入隊、入隊して1年で部隊長に任命されて、その4年後にはもう副隊長なんやからよっぽど努力したんやろう。
まあ、霊術院に入ってすぐに五番隊の隊員をボッコボコにするくらいやからなァ、くらいにしか思わへんかった。

飲み会で会うまでは

飲み会で会ったあいつは、どっからどう見ても優等生の面を被った随分と不器用な生き方をしとって、周りが想像する自分を演じて自分自身を守ろうとしているように見えた。
わからんくもない。
霊術院入ってすぐに入隊するエリートコースを歩んできたあいつは、相当強い当たりを受けたんやろう。
同期の志波は人付き合いが良さそうだからそこら辺は上手くやったんやろうけど、どっからどう見てもあいつは、愛想もないし、中々人に心を開く奴ではない。
それに加えて、女やから生意気やとか色々あったんやろうなァ。
姉ちゃん死んで寂しいんに拍車をかけるように人付き合いが上手く出来んくて。
そんで、独りで生きてく方が楽やと思ったんやろう。
自分の本心も晒さず、周りが想像する自分でいることが一番良い道やと、、、

あんまりにも不器用な生き方をしている、部下の妹を放っておけず、随分とらしくないお節介を焼いてしもうた俺は、ちょっとやりすぎたかなァ、と後悔をした。


「よう、真子」

「なんや、ラブかいな」

「おう、あんまうちの副隊長いじめんなよ」

「…………どないなん、名前ちゃん」

「あー、仕事に関しては今までの副隊長に比べてピカイチだせ。」

「隊員たちとは上手くいってないんかいな」

「うちは男隊士ばっかりで、女に慣れてねぇからなぁ。それに加えて名前も隊員たちと関わりたがらねぇし。ったく年頃の女の子は難しいぜ……」

「昔は、もうちょっと素直やったんだけどなァ…………」

「昔?」

「……………7年前にうちの隊員が喧嘩したいうて大騒ぎになったことあるやろ」

「ああ、ド派手に暴れて隊舎が半壊するわ、門番も倒れるわ、離れた場所で半分の隊員が瀕死で生命の危機をもさまよった大事件だろ?」

「あれ、名前ちゃんやってん」

「は?あいつ、あの頃霊術院行ってただろ?」

「その前に夫婦で入隊してきた隊員いたやろ?そんで、旦那と貴族のガキが喧嘩した挙げ句嫁が死んだっちゅうことあったやんけ、その嫁さんの妹が名前ちゃんなんや」

「…………復讐ってことか」

「出来ひんかったけどなァ」

「それで、その頃と何の関係があんだよ?」

「そん時な、俺に向かってお前も殺してやろうか言うてきたん」

「…………すげえな」

「隊長相手に殺すってどないな教育受けとんねん思うけどな、よっぽどそん時の方が今より生きてる感じしたわ」

「それにしてもオメーにしては珍しいな、他人にお節介を焼くなんてよ」

「自分でもよう分からへんけどな」

「まあ、美人だしな」

「確かに性格は難ありやけどなァ、って何言わしとんねん!」

「まあまあ、そんな怒んなよ」

「で、どないするん?」

「まあ、時が解決してくれることを祈るだけだな」

まあ、ラブにもどうしようもないんやろうなァ。

それからしばらくして隊首会で会うた時、えっらい警戒されてて、まあ、そうやろうなァって感じで。
そうか思ったら、隊首会の後に五番隊にいて。まあ、隊首会の時に随分、藍染を警戒しとったからそこん所ついてくるんやろうと思ってた。
本人もこの前の事があったし、人とほとんど話さへんからどうしていいか分からんかったんやろう。
随分と下手なご飯の誘い方に、笑いが出てきた。






そっからは、名前はどんどん心を開いてきて。あいつの優等生っぷりは見かけ倒しで、からかうとすぐにむきになるし、けっこう辛辣なことも言うし、意外と子供っぽい一面もある。

そういうところを見てて、知って、どんどんあいつに惹かれてった。



そんなある日、あいつがようやく確信的に藍染のことに触れてきた。
そろそろくるかなァ、いう気持ちとそもそもそれが目的で近づいてきたもんなァ、いう少し残念な気持ちやった。

だけどあいつが俺の羽織を掴んで、俺の側にいたい言ったときは幻覚でも見始めたかと思った。あんまりにも間抜けな顔をしとったんやろう、それにあいつも自分でびっくりしとったしなァ。
風のような速さで消えていったそいつに俺は、これからどうすんねんって独りごちった。




その事で仕事もあまり身に入らず、口うるさい副隊長に残業をさせられた俺は一人悲しく残業をしとったら、いきなりドアを開ける音を聞いた。
ドアを壊す気かいな、それに、どこの悪い子やねん、って思ったら頭の中でずっと考えてた女やった訳で……

何でいきなり、思い出したんかはよう分からへんけど、名前の話を聞いていて、やっぱりこの女の事が好きなんやなァって思った。





女に泣かれると面倒やと思うけど、こいつなら泣き止むまで側にいたいと思う。
女に頼られるのはあんまり好きやないけどこいつになら頼られたいと思う。
女に寂しい言われても、そんなん知らんわァ思うけど、こいつなら気のすむまで一緒にいたいと思う。

惚れたら負けやという言葉はあるけどほんまやなァ。

気が付いたらキスをしていて、らしくない甘い言葉を言って……

こない甘い言葉、自分で言ってて寒いなァ思うけど、やたら自分を好きになれないお前のためやったらいくらでも言ったる。
お前が自分を好きになれないんなら、俺が名前を好きになったる。

人前では猫を被るけど、寂しがりやで、不器用で、まっすぐで、意外とよく食べて、仕事でもめんどくさがりやで、すぐにむきになって、けっこうネガティブで、、、
駄目なところを知っても、知れば知るほど、可愛くおもえるんやからなァ…………



こんな大事なもの絶対離さへん、抱き締めると意外と細い、その身体をよりいっそう強く抱き締めた。

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