16 だって私の世界を変えたのはあなたなのだから

今日はとても晴れやかな天気で清々しい。

そんな爽やかな朝に私を待ち受けていたのはたくさんの始末書で。

『……三席、これ何?』

「いや、昨日の始末書ですよ。」

『あんた馬鹿正直に隊長に報告したの?』

「え、ちょっだって壊したの副隊長じゃないですか!?」

そこはもっと上手く報告しろよなと思わず舌打ちしてしまった。馬鹿正直に報告しなければ、もっと始末書は少なかったはずだ。この男はとことん真面目な人柄だ。

「ちょっ舌打ちはひどくないですか!?あ、けど俺も少しは手伝います。」

『あんたが書類一枚仕上げるのよりあたしが始末書書いた方が早いからいい。』

「え、副隊長ひどくないですか……」

始末書なんて適当に書けば終わる。十分もしないうちに書き終えた私は別の書類をチェックする。半分の書類を見終わって残り半分を三席の机の上に置いた。

『じゃあ、お言葉に甘えて。』

「え、ちょっ副隊長!!」

始末書を持って隊長の所に行った。恐らくそろそろ隊首会が終わった頃だろう。


『隊長、おはようございます。』

「おう、昨日は随分暴れてたみてぇだな。」

苦笑いしながら始末書を差し出した。

「ったくこの量の始末書を午前中で片付けるなんてさすが天才の名は伊達じゃねぇな。」

『私は天才じゃないですよ。それに同期に海燕だっていますし。』

「そう謙遜すんなよ。そういや、お前ら以上の天才が今年入隊したらしいぜ。」

『へぇ。』

それは少し興味深い。

「何といってもそいつは霊術院を一年で卒業したらしい。」

『それはすごいですね。』

二年で卒業するのもそれなりに大変だった。それを一年とは……そういう人こそ天才と言うんだろう。

「確か、真子のところだっけなぁ……入ってそうそう三席らしいぞ。」

『…………五番隊ですか』

よりにもよって五番隊か。確か五番隊の三席は少し前に殉職をしたはずだ。その後釜として入るにはあまりにも間が良すぎる。

「ああ。しっかし真子の奴の所にはほいほい優秀な奴が多いよなぁ。藍染とかよ。」

『藍染ねぇ……』

あの男は喰えない男だ。何を考えてるかわからない。

「何、心配すんな。うちの副隊長も十分優秀だよ。」

『…………別に拗ねてないですよ。』

しかし、藍染が三席を引き抜いたとしたらあまりにも危険だ。奴が仮に何かを企んでいて、その味方として天才児を入れたなら果たして平子隊長と言えども抑えることはできるのだろうか。

「……名前!」

『へっ?』

「オメーって奴は……この書類届けに行ってくれ。ついでに昼休憩とってこい。」

『え、昼休憩には早くないですか?』

「いいって。ストレス溜められて今度こそ隊舎壊されたら大変だからな。」

『…………そんなことしませんよ』

「いいって、いいって。オメーは働きすぎだ。ほら、真子にでも奢ってきてもらえ。」

『…………はあ。』




何やかんや言いくるめられて五番隊舎にやって来た。何だか騒がしい。

「ギンの奴……あいつまたサボりよったな……!俺ちょっと探してくるわァ」

「何言ってるんですか、隊長。そう言ってサボるつもりでしょう。ったく参ったな。僕探しに行ってきます。隊長はくれぐれも仕事をするように。」

「ったくうるさいやっちゃなー。」

中から茶番劇のような会話が聞こえてくる。恐らくギンと言うのが天才児なのだろう。その天才児がサボっているらしい。どうでもいいけど。

藍染が出てきた。一応副隊長としては先輩なこの人に作り笑いをしながら会釈をする。あっちも笑いながら挨拶をしてきた。

「やあ、苗字副隊長」

『こんにちは、隊首会以来ですね。書類を届けに来たのですが入ってもよろしいですか?』

「すまないね、みっともないところをお見せして。」

『いえ、全然。』

「では、失礼するよ。」

藍染と初めて会話をしたけど表面上は人が良さそうだ。むしろ、ヘラヘラしてる隊長の尻拭いをする頼れる副隊長なのだろう。だけど、こいつと話しているのは気味が悪い。少し鳥肌がたってきた。

「そんで、自分いつまで突っ立ってるつもりやねん。」

『相変わらずサボってるんですか?』

「会って最初の挨拶がそれかい!普通、平子隊長に会いたかった!とかあるやろ……」

『会わない間に随分おめでたい頭になったみたいですね。』

「自分どんどん辛辣になってきたな。」

『それよりこれ書類です。』

「おん。」

『五番隊に天才児が入隊したらしいですね。』

「っハ!天才児か何か知らんけどガキのくせして仕事サボりよって。」

『平子隊長の教育の賜物じゃないですか。』

「やっぱそうなんかなァ…………って何言わしとんねん!」

『しかし、霊術院を一年で卒業するなんて考えられないですね。』

「こっちからしたら一年も二年も大差ないけどな。」

『…………』

「何やねん。」

『お腹空いたなぁって。』

「……そんで何やねん。」

『愛川隊長にお昼休憩とってきていいって言われてて。』

「…………」

『別にこの前の店でいいですよ。』

「名前お前どんどんふてぶてしくなったなァ。」

『ありがとうございます。』

「褒めてへんわっ」






平子隊長と二回目の食事だ。何だかんだ言ってこの人は優しい。突然私が来たって、しゃあないなァって言ってご飯を食べに連れていってくれる。その、言葉が好きで、甘えすぎてるのかもしれない。そんな事を考えながら歩いてたら、

「……名前!聞いとんのか?」

『聞いてませんでした。』

「ほんま失礼なやっちゃな……平子隊長のありがたい話を聞いてへんなんて人生の半分くらいは損するで」

『それは大変ですね』

「えっらい棒読みやなァ」

『そう言えば、この前五番隊の三席が殉職した後なのによく、すぐに優秀な三席を見つけられましたね。』

余計なことだと分かっていてもその話題を出してしまったのは、恐らく藍染と話してどんどん仮定が確信に変わってきたからだ。平子隊長の顔つきが少し鋭くなった。

「…………えらい遠回しな言い方やな」

『そちらこそ随分含みのある言い方ですね』

「そんで、どう思ったん?」

『…………失礼を承知で言わせて頂きますけど、五番隊の三席が亡くなられて、その後釜が新入隊士だと聞いたとき、少し違和感を感じました。』

「…………何でそう思ったん?」

『新入隊士が席官の座に座るだけでも隊士の中には不信感が大きいです。それなのにさっき五番隊の隊士の雰囲気を見ると誰一人として不満を言ってる人がいない。ましてや、歳も若いのに。』

「…………」

『天才と言えども経験値に関しては長年いたものに比べて劣る。能力が高くても本当に現場で使い物になるのか。そう言われて妬まれる事が多かった私としては、余程五番隊三席の人望が厚いのか、それとも隊士の人事を指揮する副隊長の人望が厚いのかなぁって思いました。私としては、後者だと思っているんですが。』

「…………えらい自信やなァ。」

『すいません、生意気にも部外者なのに口出しをしてしまって。』

「いや、別にどう思うかについては個人の勝手やろ。」

『部外者ですけど、でも私は…………平子隊長がいなくなるのは嫌なんです。』

気が付いたら私は平子隊長の羽織を掴んでいて。らしくないけどそれは私の本音だ。羽織を掴んだのは今にもあなたが遠くへ行ってしまいそうだったから。

平子隊長が驚いて私を見る。

『平子隊長が何をどう考えてるのとか分からないけど、私は平子隊長がいなくなって欲しくない。』

思ったよりも言葉がまとまらなくてもどかしい。

「…………」

『私は、平子隊長の…………側にいたいんです。』

ようやく気づいたんだ。出てきた言葉は間違いなく私の本心で。

「…………」

『……………………では、仕事に戻ります。』

「…………あっ、ちょい待てや!」

恥ずかしくなって瞬歩をしてその場を去ったのはようやく自分の気持ちが分かってしまったから。

面倒なことなのに、自分とはあまり関係がないのに、それでもあなたが気になる理由が。

その答えは簡単だったんだ。




私はあなたが好きなんです。

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