14 その感情の名前をまだ付けることはできなくて
今日も今日とて仕事は多い。徐々に副隊長業にも隊にも慣れてきた。それでも、この量の仕事をこなすのは疲れる。最近は書類整理ばかりで腕が鈍るかなと、そんな事を考えていたら、懐かしい顔がやって来た。書類を三席が自ら届けにくるのは珍しい。ましてやこいつが、自ら来るのは相当珍しい。いや、恐らく夜一さんが故意に指示したな。
『砕蜂。久しぶり。』
「貴様は!苗字…………副隊長」
『今、私休憩でさ。ちょっと、体が鈍ったみたいだからさ、修行に付き合ってよ。』
「ふざけるなよ!体が鈍っている貴様では相手にもならん!」
『相変わらず短気だなぁ。ほら、場所は七番隊舎の裏ね。』
「あ、おいっ!待て!!」
砕蜂の言葉を無視して七番隊舎裏まで瞬歩する。
七番隊舎の裏に着いた私の後に、すぐに砕蜂が着いた。奴の顔を見れば不機嫌の極みのような顔をしていて、少し笑いが込み上げてきた。そんな私を見てさらに眉間に皺を寄せた。
「どういうつもりだ。私に貴様の修行に付き合えだと?ふざけるなと言ったはずだ。」
『そんなに怒らないでよ、三席殿。』
「…………副隊長様にそのような時間があるのか。随分とお暇なようだな。」
『怒らないでってば。白打でいい?』
「望むところだ!!!」
少し疲れて辺りを見回したら、いつの間にか人だかりができていて。少し暴れすぎたみたいだ。
「貴様……少しは加減という言葉を知らないのか……」
『なんだ、あんたには少しきつかった?』
「……余程死にたいみたいだな。ならば身をもって知るがいい。私の本当の力をな!」
「まだまだ暴れたい気持ちはよくわかるがの、これくらいにしておけ。」
「よ、夜一様っ!」
『夜一さん、久しぶり。』
「貴様、もう少し改まった態度をとれぬのか!」
『あんたは改まりすぎだよ。』
「まあ、良い。そういや、名前お主に後で話があるのじゃ。今日の定時後時間はあるかの?」
『はい。わかりました。』
「じゃあ、よろしく頼んじゃぞ。いくぞ、砕蜂。」
「はっ」
あっという間に瞬歩でいなくなった二人を見送って辺りを見渡した。
「副隊長!何をなさってるんですか!すごい音がすると思って来てみたら何か目には追えない速度で戦ってらっしゃいますし!それに副隊長が暴れるから木が倒れてるじゃないですか!」
『ひどいなぁ。暴れてたんじゃなくて、新技の開発。少し、失敗しただけ。』
「少しの失敗どころの騒ぎじゃないです!どうされるんですか!こちらの後始末!」
『私この後夜一さんに呼ばれてるんだよね。』
「知ってますよ。僕もいたんで。」
『……いたんだ。まあ、それなら話は早いやっ。後片付けよろしく!』
「え、っちょ副隊長!」
悪いとは思いつつ瞬歩でその場を去った。
『夜一さん』
「なんじゃもう来たのか。隊舎裏の後処理をやってから来るものじゃと思っておったぞ。」
『…………まぁ、黒木なら大丈夫ですよ』
「黒木とは七番隊の三席か。お主ほんに変わったのー。まあ、それは良い。本題に入ってもよいか?」
『…………あの技のことですか?』
「あの技の名は瞬閧。じゃがあの技はお主にはまだ早すぎる。」
『…………確かに実戦に使うにはまだ早いかもしれませんが、いずれは習得するつもりです。』
「やれやれ、お主意外と負けず嫌いじゃからのー。もしその技の修行をしたいのなら、わしに言うがよい。あの技は危険じゃ。」
『……てっきり止めろと言うものだと思っていました。』
「止めろと言うてもお主言うこと聞かんじゃろ。それに、お主なら出来ないこともないかもしれぬからな。」
『ありがとうございます。』
「なら本題に入るぞ。」
『さっきの話が本題じゃないのですか?』
「その事についても話したかったのも事実じゃ。それよりお主最近、平子と良い感じらしいのぉ。恋をしておるのか?」
『……良い感じとは?』
「こう、一緒にいて嬉しいとかドキドキするとか……こう何か他の男の人とは違う感情がないのか?もちろん平子に対してじゃ。」
『…………ドキドキとは?』
「こう、胸が苦しくなるのじゃ、相手を思って。」
『胸が苦しくなる?相手を思って?……それが恋と言うのですか?』
「お主には少し早いかの?まあ、良い良い。お主もちゃんと女じゃったんじゃなー」
私には夜一さんの話のほとんどを理解出来なかった。もし、その恋とやらをしてるとしたら、私はどうなるのだろう。変わっていく自分に少し怖いと感じた。
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