12 いつしか君は特別な存在になっていて
苗字名前という女がいる。
今、ラブん所で副隊長やってる女や。因みに初めて会うたんは、奴が霊術院生の頃。名前はきっと覚えてへんやろうけど俺は覚えてる。
数年前に俺が隊長になってようやく慣れて来た頃に夫婦で入隊してきた隊員がおった。羨ましいやんけ、という気持ちとムカつくわぁっちゅう気持ちがあってな……
そんな事はどうでもええんやけど、ある日その旦那と旦那の同僚がまあ、ド派手な喧嘩をして、斬魄刀を使い始めるまでになったらしく、嫁が仲裁に入り、喧嘩は終わった。
嫁の死を代償として。
喧嘩の内容としては、旦那の相手が一方的に悪いもんで、斬魄刀を使い始めたんも旦那の相手で。けど嫁を殺したんは旦那。旦那はなんも悪うない。ただ、嫁が止めようとして入り込んだ場所が悪かっただけ。
そう隊員から報告されて、なんとも言えない気持ちになった思い出がある。
その事件の数ヶ月後位にある女の子の霊術院生がやってきた。
やってきたっちゅうても可愛いもんやなくって復讐しにやってきた。
門番があっさり負け、その旦那が襲撃されてるという何とも衝撃的な知らせは俺ん所にまで届いて、急いでその現場に駆けつけた。
そこには瀕死状態の旦那と応援に駆けつけたであろう気を失った隊員たちと嫁に似てるけどもう少し幼い女がいて。
「…………何してんねん。」
『あんたには関係ない。』
「そいつは俺の部下やねん。関係ないとは言えなくってなァ。」
『部下を守りに来たのか。』
薄ら笑いを浮かべながら睨み付けてきた女はまあ、殺気を放ってて。しかもそこそこ強いんやろう。
「そんで、そいつどないすんねん。」
『……殺すに決まっているだろう。』
「自分、ほんまに殺せるんか?自分がなんぼかて強い言うたって刀を持ったばっかのガキんちょやで。殺せる訳ないやろ。」
『舐めた口を利くなよ。お前も殺してやろうか。』
「何温いこと言うとんねん。ほんまに殺すつもりなら、とっくに斬りかかったらええやろ。それに、ほんまは殺せへんかったんやろ。敵の応援来るの待って止めてもらおう思ってたんちゃう?」
『…………』
「アホやな、自分。ほんまにそっくりや。姉ちゃんと。」
『…………』
「ほんまの話をすればな、姉ちゃんは不慮の事故やってん。確かに旦那は同僚と喧嘩しててなぁ。けどその非を咎めた旦那に逆上した同僚が旦那に斬りかかって、それを止めようとした旦那の刀に割って入っていったんが姉ちゃんや。」
『…………』
「運が悪かったで姉ちゃんの死が片付けられへん言うんはわかるで。ムカつくんもわかる。しゃあけどな、俺の知ってるお前の姉ちゃんはこんなことしたって喜ぶ奴ちゃういうことはな分かるで。」
『…………』
「自分も1番分かっとるんやろ。」
『…………』
「別に復讐すなとは言わへん。けどな、復讐言うんは誇りを守るためにするもんや。」
『…………』
「とっとと学校に帰り。見たところ死んでへんみたいやし、上手いこと言うといてやるから。」
『…………』
瞬歩をして消えたそいつはまあ、派手に暴れてて。部下の応急処置やらなんやらで卯ノ花さんを呼んだり総隊長のじいさんには呼び出されたり散々な目に合った。
それから数年後にラブん所の副隊長になった飲み会で会ったあいつはあの時とは正反対に優等生になっとって。
こいつほんまに天才なんか?アホなんちゃう?と世話を焼いてしまうほど不器用な生き方をしとった。
まあ、実際問題焼いてしもうたんやけどな。
流石に女の新人相手にいじめすぎたか思って少し気にしてたら数日後にはご飯を奢らせに来よった。なんやねん、それ。
こいつは俺をどれだけ振り回すんやろうか。けどそれに振り回されるんも悪くない。
前より優しい表情をするようになったあいつは同期にお節介を焼いていて。それでもって楽しそうな表情している。
「うちの副隊長がオメーに世話になったみたいだな。」
「せやで、今日なんかいきなり飯食いたいって言いに来よったからな。」
「ほう、なんじゃ、その話は。」
「名前さんがそんなこと言ったんすか?意外っすねー。」
お前は自分1人で生きてるって勘違いしとるみたいやけど、お前の事を思ってる人はたくさんいて。お前は自分が思ってる以上に強くはない。けどな、弱くもない。そんでもってたくさんの人に大切に思われてるんやで。
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