11 加速した思いはもう止められなくって

あれよあれよとしてる間にもう定時後はやってきた。この前の私と少し違うのは、心の持ちようで。なんだかんだ柄にもなく気分があがっているみたいだ。料亭に向かおうと隊舎を出たところで随分懐かしい顔を見つけた。


「あれ、名前さんじゃないっすか。」

『浦原隊長』

「なんか、慣れないっすね。名前さんにそう言われるのは。いつも通りでいいっすよ。」

『喜助さん……ですか。』



入隊の頃、浦原三席と呼んでいたのだが、慣れないからやめて欲しいとあまりにも懇願され、渋々その名を呼ばされたのを思い出す。それを見た夜一さんも同じ事を言ってたっけ?あの2人は幼なじみという事もあって似ている。少し笑いが込み上げてきて、誤魔化すように咳払いをし、浦原隊長もとい、喜助さんを見れば随分と驚いたように私を見つめていて。名前を呼んで笑い出したから気味悪がられたかと思ったら

「名前さんなんか変わられましたね。てっきり他隊だからって断られると思ってましたよ。」

『…………喜助さんの中の私って随分冷たい人なんですね……』

「え、嫌だなぁ。怒らないでくださいよ。」

『冗談ですよ。』

「なら、良かったっす。……って名前さんが冗談って明日雪でも降りそうっすね。本当にどうしちゃったんすか。」

『別にどうもないですよ、少し変わったとしたら仕事に慣れてきたのかな?』

「もう名前さんが副隊長について、1ヶ月でしたっけ?」

『ええ。』

「まあ、名前さんは優秀ですから。」

『喜助さんは慣れたんですか?って言っても今日就いたばかりだった。』

「慣れたいとは思ってるっすよ、それに今考えてる案があるんす。」

『案って仕事をサボってよく没頭してた研究を生かすものですか?』

「随分根に持たれてるっすね……まあ、その通りっす。今までになかったものを作りたくって。」

『それで上手く行きそうなんですか?』

「はははっ、どうなんでしょう。」

ヘラヘラ笑っているその顔を見る限り無理矢理にでも上手く行かせるんだろうなぁと思った。この人は意外と強引だから。

そんな世間話をしてるうちに料亭にたどり着いた。そこには四楓院隊長含めた昨日のメンバーと享楽隊長、浮竹隊長、志波海燕がいた。中々豪華な面々だ。

浦原隊長は本日の主役という事ですぐに人に呼ばれた。仕方なく私は数少ない知り合いの隣に座った。

「よう、名前!久し振りだな!」

奴は私の唯一の同期な訳で

『久し振り、海燕』

「すっかり板についてんじゃねーか、副隊長様。」

『あんただってなれるでしょ。』

「相変わらず冷てーな。まあ、名前覚えてただけまだましか。」

『あんたあたしにどんな印象持ってんのよ。失礼な奴ね。』

「どうって言われてもなー……」

『返答次第でどうなるかわかってんの。』

「お前さ、丸くなったな。」

『……今すぐ殺してやろうか。』

「別に太った意味での丸くなったじゃねえよ。なんか前よりなんっつーか、前だったら全然こういう人と関わることしなかっただろ。まあ、霊術院時代俺らは妬まれることが多かったから仕方なかったんだけどよ。なんか上手く言えねえんだけどさお前変わったよ。」

『本当に上手く言えてない。』

「お前今日は磨きにかかって辛辣だな。」

『別に変わったつもりはないよ。もし変わったとしたら多分変わったんじゃなくて変えられたんだよ。副隊長になって、上手く行かないことの方が増えてさ。あたし一人じゃ何でもかんでもこなせないんだって、今のあたしは弱いって言われたら急に楽になっちゃってさ。多分、周りが言うあたしのイメージ通りに生きようってその事が楽なんだって思いすぎてたのかな。それこそ、上手く言えないけど。』

「ふーん。けどさ、今のお前見てると前より楽しそうだぜ。」

『楽しいってよりは大変なんだけど。』

「いいんじゃねーの、昔のお前ってなんでそんなに生き急いでいるんだろうって思ってたし。」

『別に生き急いでたつもりはなかったけどね。』

「なんっつーかお前が副隊長になるって聞いたときさ、表向きは優等生だけど、本当は愛想もねえし人と関わりたがらねえし面倒な事は嫌いだし、団体行動なんて出来ない奴だから本当にこいつで大丈夫かなって思ってたけどよ、同期としては安心したわ。」

『…………所々失礼な言葉が聞こえたけど、まあ、そこは置いといて。あんたも副隊長なれば?』

「俺にはまだまだ早い話だよ。」

『あんたの方が向いてるでしょ。』

「お前は本当の姿ははともかく、表向きだけは優等生だっただろ。」

『ぶっとばすぞ。仕方ないなあ。』

「何だよ。」

『……浮竹隊長!』

「おお、苗字副隊長か!どうしたんだ?」

『志波君が私に副隊長としての心構えを聞いてきて。自分も早く立派な副隊長になりたいから、って。まだまだ副隊長になったばかりの私としては尊敬する同期に助言しようがなくって。浮竹隊長から何か言って頂けませんか。』

「おい、お前何言って」

「本当か、海燕!同期の苗字が副隊長になったからお前も刺激になったか!いやー、俺は嬉しいぞ!何って言ったって十三番隊の副隊長はお前しかいないってずっと言ってきたんだからな。」

「へ、いや、それは勝手に名前が……」

「よし、これから頑張っていこうな!」

「え、ちょっと待って」

何だか海燕から視線を感じるけど、数少ない同期に同僚になって欲しいという気持ちは少なからずあって。
この同期はよく、私の特訓に付き合ってくれた。奴が言った通り私は表向きは優等生を演じていた。学力も実戦も優秀だった私は同じ優等生である奴に鬼道と白打は勝っていて。そんな私が奴に唯一負けたのは剣術だった。

初めて負けた私はあまりにも悔しくってムカついて奴に果たし状を書き、呼び出してまで勝負を挑んだ。結局1度も勝てなかったけど。

何だかんだ奴の前では本性を晒してたし、切磋琢磨修行をした仲だ。
入隊してから殆ど会ってはないといえ、奴が私の同期ということは変わらない。
また、奴と切磋琢磨して副隊長を出来たら今よりもっと楽しいんだろう。ノリノリの浮竹隊長に丸め込まれてる海燕を見て少し笑いが出てきた。

「自分意外と強引なんやなー……」

『平子隊長。』

「昼振りやな。」

『お昼はご馳走さまでした。』

「別にええよ。自分で好きに出したんやし。」

『……平子隊長はどうして……』

「……なんや?」

『いや、何でもないです。』

「なんやねん、引っ掛かるやん。」

『では、平子隊長今度はいつご馳走してくれる予定なんですか?』

「いつからお前はそんなに生意気な子になったんや……」

『自分らしさを出せって言ったのは平子隊長です。』

「ムカつくやっちゃなー」


本当に今日あなたに聞きにいこうと思ったことを聞けなかったのは私が臆病だから、それにこの幸福な時間を壊したくなかったから。そして答えはもう殆ど出てるから。

あなたが藍染を副隊長にしてる理由は疑ってるからでしょう。

だから、もしもあなたに何かががあったら私はあなたを必ず助ける。


あなたを知った今、私の世界であなたがいないなんて事は考えられないんだもの。だってあなたは私の世界を変えた人なのだから。

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