09 気がつけばあなたに全てを許してて
『……あの、これから何処に向かうのでしょうか?』
「どこって……御飯屋やろ。」
あのとんでもない発言は平子隊長の笑いのツボを押さえたみたいで、自分おもろいな、ちょっと財布持ってくるから待っとき、など言われてその場を乗り越えることはできた。
「いやー、自分意外と大胆なんやな、隊長に飯奢らせるなんてなー。ラブが聞いたら驚くんちゃう?変に人に気ぃ使いすぎてるだけかと思ってたんやけど可愛い部分もあるやんけ。」
『……自、自分らしさを出せない奴は悲しい奴だと言ったのは平子隊長です。それに、自分のご飯くらい自分で出しますっ!』
「そない怒りなさんなや。別に俺は責めてへんし。むしろ自分ほんまはまじめちゃうやろ。」
『……平子隊長はよく人に失礼と言われませんか?』
「言われてみれば確かにそうかもな……ってこらァ!何を人に言わせてんねん!」
思わず笑いが堪えきれずに口を覆った。
たどり着いたその場所は私が来たことない高そうな料亭で、私一人分ですら払えるか微妙な店だ。
『……あの、本当にここに入るんですか?』
「なんや、嫌か?」
『いや、お金が……』
「あーええよ、別に。払ったる。」
『悪いですよ、それに一番安いものなら払えます!』
「そないむきにならんくてええやろ、払ったるわ。その代わりこの前の事チャラやで。」
『凄い気にしてますけど別にいいですよ。』
「なんやねん、その台詞。おかしいやろ。そこは嘘でも気にしてないって言えや。」
『これからは自分に正直に生きようかと。』
「ムカつくやっちゃな。ほな入るで。」
『え、ちょっ待ってください。』
うっわ高そうだな、しかしこの人払ったるの台詞で一体何人の女性を落としてきたのだろうか。少しチャラい。きっと多くの女性はこの台詞で落ちたのだろうな。
「自分、声出てるで。」
『本当ですか……』
「自分の方がよっぽど失礼やろ……っていうか、俺にどないな印象持ってんねん。」
『……別に、女の人が大好きそうなヘラヘラしたマヌケな関西人なんて思っていませんよ。』
「マヌケってなんやねん!っていうかほんま自分失礼なやっちゃな……」
ブツブツなにか言ってるがあまり興味はない。そうこうしてるうちにすごく美味しそうな食べ物が運ばれて来た。
『わぁ、こんなに美味しそうなもの食べたことない!』
いくら、スピード出世とは言え、新入隊士な私はあまり給料が高くなく、食べる物にこだわりは持てない。それに今までは流魂街で暮らしてた為、食べ物が食べられるだけでもありがたかった。そんな私にとって、見た目も美しく、美味しそうな食べ物は夢のようで……思わず興奮をしてしまった。とはいえ幼稚すぎる発言をしてしまい、あまりにもらしくない。ふと平子隊長を見るたら案の定腹を抱えて笑われてしまった。少し恥ずかしい。
「ええやん、自分そっちの方がよっぽど良いで。年相応って感じやし。別に自分優等生演じる必要ないやろ。お前が頑張ってここまで来たっちゅうことは皆分かってるんやし。そんなら自分らしくいたらええやん。無理に自分を作らんくても、名前は十分強いで。」
素の私を知ってそんなことを言ってくれるのはあなたが初めてで。
『……いただきます。』
照れ隠しに言った言葉はあなたには隠しきれず、そんな私を見て平子隊長が笑った。それにつられて私も笑ってしまった。この人はずるい。知らない間に人の心の中に入ってきて人の心の壁を壊す。それに何年ぶりに私は笑ったんだろう。
今はそんなことはどうでも良い。だってあなたと過ごすこの時間があまりにも幸せなんだから。
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