13:君が気付くのはまだまだ先のようです
「だから本当に昨日は赤司くんと帰れたしゴリゴリくんも一緒に食べれたし、まさに幸せの極み?みたいな感じだったの!」
「へぇ、限りなくどうでもいい情報をありがとな」
今日は朝練がなくてゆっくり眠れることが出来た。思えば一軍が決まって朝練が始まってからどたばたしてたなぁ。
「呑気にしてるのはいいが、来週からテストなのだよ。お前たちにそんな呑気にしてる暇はないと思うのだが」
「やっば、何にも聞こえないわ」
「緑間って誰だっけ?そんな人うちのクラスにいたっけ?」
「……」
無言で殴られた、容赦ない。二人でうずくまっているとふんっと鼻をならしある一言を告げる。
「赤司からの伝言だ。お前たち二人は中間試験も成績不振だったのだから今日の昼休みから勉強なのだよ」
まじかよ。
「やぁ、よく来たね」
部室に行けば赤司くんがいた。ちなみにお昼だ!のタイミングであたしと青峰は緑間に襟を掴まれ連れて来られた。どんだけ信用ないんだよ、ってかお昼ご飯!と抗議してる間に部室に到着だ。
「つーかよ、赤司は大丈夫なのかよ?俺らの勉強見てる余裕あんの?今回範囲広いぞ」
「お前に心配されるなんて屈辱だ。だが範囲が広いというのを把握してた点は褒めてやる」
「赤司くんいるならなんでもいいやー」
「苗字、お前にそんなこと言ってる余裕はないのだよ。ついこないだも数学の小テストで8点だっただろう」
「うわっ、だっせぇ!俺その小テスト13点だったし」
「青峰に負けたとか一生の屈辱…ってかあんた英語の小テスト0点だったじゃん!」
「ばっか、言うなよ!」
「随分と楽しそうにお話ししてるみたいだがいいかな?」
目の前でにっこり微笑まれて少し寒気が襲う。とてもかっこいいけれども、この笑顔は苦手だ。
「赤点を逃れる最低点数は40点だ。1科目でも赤点を取ったら夏休みに補習が入る。これは全中が控えてるバスケ部にとって青峰と苗字が抜けるととても痛い」
「40点なら取れそうな感じしねぇ?」
「マーク問題多いしね」
「一体お前たちの自信はどこから来るのだよ…」
緑間が深いため息をつく。
「随分と余裕みたいだが、平均点は65点だ。それは学年順位を下から数えた方が早いお前らにとって俺も主将も監督も死活問題と考えている。今から1週間お前たちを鍛えてなんとか赤点回避させる」
「っつてもなー、どうすればいいかさっぱりなんだけど」
「一応この前の中間も勉強したしねぇ」
「中間で赤点目前のお前たちに最初から高得点をとって欲しいなど思ってない。頼むからどの科目も赤点は避けてくれ」
「お、おう」
「う、うん」
言葉は優しいけど何か見えない圧力を感じる。うん、怖い。
確かに勉強は苦手だけれども数学以外は50点台は取れている。この前の中間全てが40点未満の青峰よりもましだ。数学は8点だったけれども、ってかなんで緑間知ってるし。
「苗字は数学かい?」
「赤司くん…」
「小テスト8点だから多分基礎から出来てないんだろう、見せてみろ。」
問答無用ですね、はい。テストを見せて赤司くんが眉間に皺を寄せる。そんな姿すらイケメンだ。王子様だと考えて現実逃避をする。
「まず基本的な公式を覚えていないな。公式を見ながらこの問題を解いてごらん」
「う、うん?」
「聞いてなかったな」
頬をむにゅっと摘ままれる。
「いはいいはい!はなひて、あかひくん!」
「公式を見ながらこの問題を解いてごらんって言ったんだ」
呆れながらため息をつかれる。
「おい、苗字!チェンジだ!ナチュラルにいちゃつくんじゃねぇ!こっちは緑間に殴られてんだぞ!」
「お前は集中するのだよ!本当はお前が赤点を取ろうが知ったこっちゃないがバスケ部に迷惑がかかるから見てるだけなのだよ!俺とてお前に教えたくない!」
「ちょ、緑間おこかよ、拗ねんなって。お前で我慢してやるよ」
「…青峰、貴様!」
「青峰、緑間、基礎練を2倍にされたいのか」
一気に二人して黙る。すごいな、と思いながら問題を解く。
「苗字、そこは()から先に解くんだ」
「んんん?」
「()を解いてから乗法、除法をやるんだ。分かりやすく言うならば掛け算、割り算だな」
「んん、」
「その後に加法と減法、足し算と引き算をやるんだよ」
「うーん、難しい…」
「何度も練習すれば出来るようになる。こっちの問題もやってごらん」
なんか良い匂いがするな、とふと目線を上げればすぐ近くに赤司くんが。ち、近い!
「赤司くんって、」
「うん?」
「良い匂いするよね」
「…聞かなかったことにするよ」
若干引き気味に言われる。そして早く問題を解くように急かされる。相変わらず苗字は人の話を聞いてないよね、と呆れられてしまった。
「なんつーかさ、」
「なんなのだよ?」
「赤司にしては珍しいよな」
「…苗字か?」
「あいつってあんまり踏み込ませねーじゃん、特に女子とかさ」
「……」
「あいつら両思いなのかな」
「仮に赤司が好きだとしても苗字がわからないのだよ」
「は?」
「なんなのだよ?」
「いや、お前こそなんなのだよ?」
「真似するな!」
「ちょ、信じらんねー。お前馬鹿かよ」
「貴様にその言葉を言われるなんて屈辱以外のなにものでもないのだよ…」
「また緑間と青峰喧嘩してるよー」
「ったくしょうがないやつらだな」
赤司くんが呆れてため息をつく。
「ため息ばっかりしてると幸せ逃げちゃうよー」
「苗字は俺を幸せにしてくれないのかい?」
「えっ!?」
「冗談だ、ほら次の問題にいかないと」
赤司くんのいきなりの発言に顔が赤くなる。対した赤司くんは余裕そうだ。
「赤司くんって天然たらしだよね」
「君は本当に気付かないな」
「え?」
「ほら、早く解いてくれないか。範囲はまだまだたくさんあるんだぞ」
また赤司くんがため息をつく。よくわからないけど一緒にいる空間が心地よいからいいや。赤司くんの期待に応えるためにも次のページを開いた。赤司が教えるなら数学が好きかも、と思いながら。
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