11:最初から触れなければ棘は刺さらないでしょ?

「苗字」

斜め前にいる緑間がこちらを見てくる。ちなみにあたしの隣は青峰だ。

「……なんなのだよ?」

「真似をするな!」

「ごめんごめん、でどうしたの?」

「怪我が痛むのか?」

「へ?全然大丈夫だけど?」

「いつもみたいにうるさくないのだよ」

「失礼極まりなくない?あたしいつも静かですけど!ってか青峰だって静かじゃん!」

「馬鹿め、あいつは寝てるだけなのだよ。部活か?」

「わかってるなら聞かないでよ、桃井さんはマネージャー始めたときからけっこう仕事を任されてたの?」

「個人的な仕事という意味では赤司が副主将になってから頼まれ始めたのだよ」

「そっかー」

「頼まれてる点では苗字も一緒だろう」

「違うよ、なんか違う」

「考えすぎなのだよ、もっと肩の力を抜け。確かに1軍に来たばかりのお前はバスケのルールもてんで駄目だったが、今はきちんと出来ている。それどころか部員のフィジカルケアもしている。十分に頑張っているのだよ」

「駄目なんだよ、もっときちんとしないと。全然近付けない」

「1軍に来てまだ1ヶ月も経ってない。無理はよくないのだよ。ただでさえ1軍のマネージャーは少ないのだから倒れられては困る」

ああ、心配されてるのか、情けない。

「ぶっは、なーに?緑間心配してくれてんの?可愛いなぁ」

「…茶化すな!ふんっ、心配などもとよりしてないのだよ!」

緑間が前を向く。もともと1軍と3軍だったんだし近付けただけでも、名前を呼ばれるようになっただけでも奇跡なんだ。何を、自惚れてるんだ。





普段のマネージャー業務が多く感じる。今までは選手のフィジカルチェックや手当てを中心にやってたから自分のマネージャー業務はそんなに多くなかったんだって実感させられる。それは桃井さんも同じらしくお互いに余裕がない。

「おい、マネージャー!飲み物ねーぞ!」

「すいません、今持ってきます!」

「マネージャー、タオルも足りてない!」

「はい!」

腕も痛い、飲み物持っていけるかな?いや、持っていかないと、

「苗字!危ない!」

へ?と思った時は遅し、青峰の声と同時にボールが顔に激突する。

「あらら〜、わざとじゃないんだけど〜。ってか避けてよね〜」

痛すぎて声が出ない。昨日に引き続きまた怪我をした。いや、鼻血なんだけど。ってか鼻血を流すって女としてどうなんだ。

「苗字大丈夫か?」

心配そうに青峰が駆け寄ってくる。あまりの痛さと悔しさに涙が溢れそうになる。駄目だ、ここで泣いちゃ。

「緑間!ラッキーアイテムどこ?」

「あ、ああ。ここにあるが、」

運が良いことに緑間の今日のラッキーアイテムは箱ティッシュだ。
鼻をかんでから鼻にティッシュを詰め込む。

「馬鹿め!俺のラッキーアイテムがなくなるのだよ!」

「今すぐ飲み物持ってきます!」

「苗字、休め」

腕を引っ張ったのは赤司くんで、

「あたしは大丈夫なので、副主将は休憩に戻ってください」

手を振り切る。いつまでだって頼ってられないし、ただでさえマネージャーの人数が少ないんだ。たかが鼻血なんかで休んでいられない。



飲み物を持って足りないと言った張本人のところに行く。

「主将、持ってきました」

「お、おう」

ドン引きしてる顔だ、そんなの関係ない。桃井さんもこちらを心配そうに見てる。美女にしたら考えられないだろうけど、あたしにはこれがお似合いだ。

「誰か怪我した人とか体調悪い人いませんか?」

「いやいや、お前に言われちゃ終わりだろ」

虹村先輩がため息をつく。っつーか赤司がすげぇ不機嫌だからどうにかしてこい、と言われる。

「いえ、あたしはマネージャー業務に戻るので」

鼻がめちゃくちゃ痛いけどあたし1人休んだらただでさえいっぱいいっぱいの仕事が回らなくなる。それに今のあたしは桃井さんに嫉妬ばかりしてて赤司くんに顔向け出来ない。緑間のティッシュで鼻をかんで気合いを入れる。

「苗字!貴様は!使いすぎなのだよ!」

「使うためにあるんでしょーが!あたしの鼻とヘンテコ占いのラッキーアイテムどっちが大事なの!」

「おは朝の占いだ、馬鹿め!それにヘンテコではない!」

「緑間も苗字もティッシュごときで喧嘩すんなよ。俺のティッシュやるからよ」

「こんながさがさのティッシュやだー」

「人事を尽くしてないティッシュなどティッシュとは認めん」

「お前ら2人表に出ろ、ポケットティッシュを配ってた姉さんに謝れ」

「緑間、青峰うるさいぞ。外周されたくなければ静かにしろ。それに苗字もマネージャー業務があるはずだ。遊んでる暇はないだろう」

赤司くんに一括されて黙る。本当に今日はとことん上手くいかない。青峰に肩を叩かれる。何がそんなに違うんだろうか。


夜練も終わり、帰る支度をするために更衣室に向かう、はずだったけど虹村先輩に声をかけられる。

「あー、苗字」

「なんですか?」

「あれだ、うん。赤司も男なんだよ」

「はぁ、知ってますけど?」

いくら綺麗な顔をしていようとそれくらいはわかる。

「うん、お前らギスギスしてると部も雰囲気悪いんだよ。とっとと仲直りしてこい」

「仲直りするもなにも喧嘩してないんですけど」

「あ?お前は男心がわかってねぇ。男は頼られたいんだよ」

この人頭が沸いたのだろうか、らしくないことを言い始めてる。

「声出てんだよ!お前は!ったく赤司もティッシュ詰め込む女のどこがいいんだが」

「あれ?さりげにディスられてますよね?ディスりすぎじゃないですか?」

「おい、赤司!」

「ちょ、虹村先輩!?」

呼ばれた赤司くんがやってくる。

「一応苗字も女だ。紫原のせいで怪我したんだし紫原の世話はお前なんだからお前が送ってやれ」

「わかりました」

「ったく先輩にこんだけ気を使わせてんだから赤司もしっかり男見せろよ」

「変な勘繰りはやめてください」

「ったく変な意地はってんじゃねーよ」

赤司くんの頭をぐしゃぐしゃして、更衣室に向かう。

「苗字も早く着替えてこい」

正門で待ってる、と言われる。
目も合わせずに去っていく赤司くんが随分遠く思える。近付きたくて頑張ったはずなのに、どんどん離れていく背中を見て泣きそうになった。

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