06:恋は練習不足で
昨日の失態は忘れてとりあえず今日は自分に出来ることをしようと思う、と朝5時にかずみんに留守電を残し朝練に向かう。
打倒、桃井さん!を掲げスポドリ作りを始める。今日は一番最初に来たし一軍メンバーの名簿は手に入れた。まさにあれだ、人事は尽くした!
朝練の休憩中に苗字!と主将に呼ばれる。何なのだろうか?
「なんか今日のスポドリ量が少ねえよ」
「人が1回に吸収できる水分の量は200mlなので200mlにしました」
「それに味も薄い」
「糖質の量が多いと吸収に悪くて非効率です」
「あと温い」
「冷やしすぎると胃に悪いし10℃くらいが一番吸収がいいので」
主将の眉間の皺が増えていくけど気にしない。昨日帰ってから家でずっと調べてたから今日は完璧のはずだ。
「随分昨日とは違うじゃねえか」
「マネージャーとしては当然です」
王子様に近づきたいから寝る間も惜しんで昨日は勉強したからもうそりゃあ完璧に決まってる。
「おい、心の声が駄々もれだっつーの、って聞いてねぇな…」
「それでは私はボール磨き行ってきます」
人事を尽くすとは素晴らしい、昨日の私とはまるで別人だ。
ボールを磨いた後に朝練の終了の挨拶をする。今日はマネージャーは一人だったのだろうか?と思って部室に入ろうとするととてつもない音が聞こえた。
え、怖すぎる。
少し覗くと桃井さんと先輩方マネージャーを含めた3人で話してるみたいだ。あれ?ハブられた?と思うのもつかの間、桃井さんが押されてよろめいてるみたいだ。
「ちょっとさ!あんた調子こきすぎ」
「1年生で一軍選ばれるとか誰に媚売ったのよ」
やばい、修羅場だ怖すぎる。
「ってかさ青峰くんと付き合ってんの?本当にないわ」
「青峰くんと付き合ってるくせに赤司くんとも仲良くしちゃってさ本当にうざい」
「どっちが本命なのよ」
「あの、先輩方!」
「あ、なによ苗字さん」
「ギプスってどこに片付ければいいんでしたっけ?」
「そんなこともわからないの?桃井さんに教えてもらいなさいよ」
あと今のこと部員に言ったらあんたも同じ目に合わせるから、と脅される。あんたなんか眼中にもないんだからせめて迷惑をかけないでよね、と言われる。さりげにディスられた気もするけど気にはしない。
「……」
それにしても気まずいことこの上ない。さっさとギプスをしまって教室に行こう。
「ってか桃井さんその制服…」
「あ、ちょっと、」
見るも無惨に破かれた制服はあまりにも痛ましい。
「はいっ」
少しきついかもだけどないよりましでしょ?と言って制服を渡す。
「あたし一番に体育館に来たし忘れたとか言えばなんとかなるから。それに制服は近所のお姉さんからもらったやつもう一個あるし明日はなんとかなるから気にしないで!」
それじゃあ!と言って教室に戻る。
体育館を出て待っててくれてた緑間と青峰にぎょっとされる。
「貴様、制服はどうしたのだよ」
「朝練だから張り切ってジャージで来たからわすれちゃった、てへ」
「馬鹿め、落ち着きがないからそうなるのだよ」
「緑間辛辣すぎ!」
「っつーかお前今日1日ジャージで過ごすの?」
「え、そうだけど?」
それ楽そうでいいな、俺も明日そうしよっかなとか青峰が言うと緑間が怒り始めた。もう少しカルシウム取った方がいいと思う、と呟くとさらに怒られた。短気すぎる。三人でだらだら戻ってるとふと肩を叩かれる
「いやぁ、随分部活に張り切ってくれてるみたいで嬉しいんだけどよ、お前馬鹿なの?」
振り返ったら般若がいた、怖すぎる。
「声出てんぞ、よし苗字表出ろ」
「嫌だなぁ、そんな物騒なこと言わないでくださいよ」
「どうしてお前は誉めるとすぐこうなるんだよ」
などとくどくどと教室に行くまで虹村主将に説教をされるわ、担任の先生には怒られるわ、赤司くんには呆れられる顔で見られるわで散々な1日だった。
「お疲れ様でした!」
「おい、苗字お前明日は制服忘れんなよ」
「ちょ、バカ峰に言われたくないんだけど!」
「苗字制服忘れたら外周させるからな」
「虹村主将まで!」
お疲れ!と色々な人に声をかけられる。なんとか1日を乗り越えてとてつもなくへとへとだ。
「桃井に制服を貸したみたいだけど苗字さんは替えの制服はあるのかい?」
「あぁ、かずみんのお姉ちゃんからもらったやつもう一個あるし大丈夫かな」
ってかあれ、誰と話してるんだ?と思って振り返ったら王子様がいた。ジーザス。
「いや、その、制服忘れただけなんで」
「朝、制服を着て登校してただろう」
「え、なんで知って…」
「君が登校した時間に俺も来たからな」
「早くないですか?」
「君も昨日言ってただろう、俺はいつも一番に来てるって」
「いや、え、その」
「先輩方のマネージャーの中で桃井があまりよく思われてないのは知ってたし、今日の朝練で君以外のマネージャーは顔を出さなかったのは不自然すぎる。大方の予想としては揉めていたんだろう」
俺らが首を突っ込んで解決する問題でもないし参ったな、と呟く王子様を見る。
「あの!あたしがなんとかしてみます」
「……マネージャー業務もまだ慣れてないのに大丈夫なのか?」
「赤司くんを助けるのがあたしの仕事なので!あたし赤司くんを支えたくて入ったんです」
少し目を見開いて驚いた顔をする王子様を見つめる。どんな顔をしてもイケメンだ。
「すごい助かるがその申し出は苗字にリスクが大きすぎる」
君自身が桃井の二の舞になりかねないからな、と言われる。
「あたしは桃井さんのことまだ知らないけど好きになれそうな気がするんです。先輩たちもきっと好きになれる。」
赤司くんが目を細める。
「それにあたし馬鹿だからそういう難しいこと考えたくないんです。いつも自分がやりたいように進もうって決めてるし」
「じゃあ君を信じてみようかな」
無理はしないでいつでも相談してくれ、と告げられる。
「あ、あの!」
「なんだい?」
「あたし、赤司くんのこと大好きです」
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