05:羨ましいなんて思うことも許されない

あっという間に放課後はやって来たわけであって。

「ねぇ青峰、髪型変じゃない?」

「あ?普通だろ」

ちなみに髪型はかずみんから借りたコテでゆるふわに巻いてポニーテールにした。グロスも塗ったしバッチしメイクだ!うん、かずみんからもお墨付きもらったし。今、三人で仲良く一軍体育館に向かっている。

「っつーか昨日の今日でお前が一軍昇格とはな〜 俺に感謝じゃん」

「馬鹿め、怪我をしてそんなこと言ってると痛い目に合うのだよ」

「緑間も青峰も一軍なの?驚きなんだけど」

「馬鹿め、部員の名前と所属くらい覚えておくものなのだよ」

「ちなみにもう一人1年生いっからな、馬鹿デカいやつで紫原っていう奴なんだけどよ、あとマネージャーはさつきか」

明らかに場違いすぎないか?と、若干不安を覚える。医療に関する知識はそこそこあるけどバスケなんてさっぱりなんですけど、毛が生えたくらいなんですけど。

「苗字、一軍はそんなに甘くないぞ」

別にお前がいた三軍が甘いと言ってる訳ではないがな、と緑間が心配そうに見てくる。

「困ったことがあったら言えよな、なるべく助けになるからよ」

「え、まって急に優しくなんないでよ、怖いじゃん。なに?二人とも急に映画のジャイアンみたいになってさ」

「馬鹿め、俺は剛田武じゃない、緑間真太郎なのだよ」

「マジレスかよ」

まあとにかくだ、と青峰がこちらを見る。

「部活の赤司は王子様じゃねえぞ」






「コーチの真田直人だ、青峰が世話になったらしいな」

その節はどうもありがとう、と言われる。入部して一ヶ月だけど初めて見た人に戸惑いを隠せない。三軍の体育館にこの人は一度も来たことがない。

「主将の虹村だ、よろしく」

「はぁ、」

「はぁ?主将が名乗ってるんだからお前も名乗ってよろしくだろ?」

もういっぺんやり直しだ、と言われる。なんだこの人怖すぎる。しかも皆の前で恥ずかしい。

「苗字名前です、よろしくお願いします」

もう泣きそうだ。

「副主将の赤司征十郎だ、よろしく」

「は、はい」

とても王子様、なんて言える雰囲気ではない。とても近付いたはずなのに遠くにいるように感じる。

その理由はもうわかっている。

「おいこらマネージャー!早く備品の準備をしろ」

「は、はい!」

「マネージャー!タオルが足りないぞ」

「今すぐ持ってきます!」

「ドリンク足りてない!」

「今すぐ作ってきます!」

明らかに今までいた場所とのギャップについて行けてないし、自分の知識の不足で部員を困らせている。

「苗字、俺も片方持つよ」

青峰が声をかけてくれる。緑間もこっちを不安そうに見ている。

「青峰甘やかすな、それはマネージャーの仕事だろう」

「だけどこいつはまだ来たばっかだろ」

「関係ないさ、他のマネージャーだって今までやってきただろう」

ちなみに、と声をかけられる。

「パーマや化粧は校則違反だ、帝光のバスケ部の一員なのだからそれくらいの決まりは守ってくれ」

「…すみません」

急いでドリンクを作ってくる、その場にいたら泣きそうだ。王子様の言ってることは正論だし放課後まで浮かれていた自分が恥ずかしい。
なんだか全部が空回ってしまっていて辛い。情けないくらいに出来ない自分が嫌だ。
自分一人、取り残されている感じが寂しい。



「お疲れ様でした!」

苗字、と声をかけられる。

「緑間?どうしたの?」

「お前の誕生日はいつだ」

「3月17日だけど?」

「魚座は今日はおは朝の占いで最下位だったのだよ。しかもお前はラッキーアイテムのアヒルが眼鏡をかけてるぬいぐるみを持っていない」

「家に帰ってもそんなものないんだけど」

「俺は持っていたから貸してあげられた」

今日初めて話したのにそんなことを言ってくるのはきっと励ましてくれようとしてるからだろう。

「緑間ありがとね」

そう言えば、礼を言われることは何もしてない、と眼鏡のブリッジをあげた。ツンデレかよ。

「桃井!」

「赤司くんなに?」

「頼んでいたこのプリントなんだけど」

二人で話してると美男美女で絵になる。勝手に嫉妬してるなんて馬鹿みたいだ、思わず目頭が熱くなった。





男子更衣室の中にあるマネージャー日誌を取りに行く。

「今日のマネージャーさ、まじ1年だけどあれはねぇだろ」

「赤司が見込んだ奴だからもう少しましなの入ってくるかと思ったけどあれは駄目だな」

「顔は桃井とはれてるけどマネージャーとしてはなぁ」

話を聞いてて泣けてくる。そりゃ桃井さんと比べればそうなるのはこっちだってわかってるし、言葉に出されるときついものがある。

「赤司も大したことねぇんだよ」

あいつ副主将になったからって調子こいてたからよ、という声が聞こえる。いや、ちょっと待って。

「いや、ちょっと待ってよ!」

これは聞き捨てならない。

「あたしの王子様を馬鹿にしないでよ!」

「え、マネージャー聞いてたの?」

やばくね?という声が漏れる。

「あのね、王子様はいつもあんたらの誰よりも長く練習してるしね、誰よりも朝早く来てるのよ!あたしが馬鹿にされるのは仕方ないけど王子様は馬鹿にしないでよね!」

「苗字」

「大体ね、あんたらが必死に練習してなった一軍に入ってるんだから努力しないとこれないことくらいあんたらが一番知ってるでしょ」

うっ、と言う先輩たちを睨み付ける。

「苗字」

「あ、副主将…」

呆れたようにため息をつかれる。

「マネージャー日誌を取りに来たのだろう」

「あ、はい」

今はあまり王子様に会いたくない。怒られてばっかだし怒られたし、なんだか惨めだ。

「では失礼します」




あたしも桃井さんみたいに少しでも気を使える人だったらなぁ、なんて考えているあたりアホみたいだ。
桃井さんだったら、王子様の横を歩けるのかな?
桃井さんと王子様の歩いている姿が焼き付いて離れない。胸が苦しくて痛い。
もういっそこんなところ来ない方がよかった。

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