霧野先輩の口から途切れ途切れに神童先輩への思いが溢れた。小学生の頃から好きで、大好きで、大切だったのに、剣城に取られてしまったと。わんわんと泣きながら語る霧野先輩にかける言葉が見つからなくて、伸ばした手も空を掴んだ。苦しいんだ、淋しいんだ、と涙を流す霧野先輩に、じゃあやめちゃえば楽になりますよ、なんて言ったら、やめれるわけない、と言われた。どうして、と問えば、神童が優しいからだ、と答えた。その時の霧野先輩は泣きながら笑っていて、ばかみたいだと思った。 次の日、霧野先輩は休みだった。皆には風邪だと言っていたけれど、本当は目が真っ赤に腫れてしまったから行きたくない、神童が心配するから、と霧野先輩からメールが届いた。どっちにしろキャプテンは心配してますよ、と送ったら、剣城に会いたくないんだ、と返ってきた。きっとこれが本心だ。ふと視界にキャプテンと剣城君が入った。キャプテンの髪にゴミが付いていたようで、それを剣城君が取ってあげていた。キャプテンはありがとうと笑って、つられてあまり笑わない剣城君も微笑んでいた。幸せそうだった。幸せそうで、ムカついた。この笑顔の裏であんなに霧野先輩は泣いてるのに。視界が少し滲んだ。あれ、どうして俺は泣いているんだ。 「狩屋、どうしたんだ?」 いつの間にかキャプテンが目の前に居て、俺のことを心配そうに見ていた。 「なんでも、ない、です」 ジャージの袖でごしごしと涙を拭いた。よりによって、今一番嫌いな人に涙を見られるなんて、最悪だ。なのに、いくら拭いても涙は止まってくれないから困る。ごしごしと何度も拭いてたら、キャプテンに腕を掴まれた。 「あまり擦ると赤くなるぞ。あと、泣きたい時には泣いていいんじゃないか」 半分はあんたのせいですよ、と言えるはずもなく、俺はキャプテンの言うように我慢せずにのわんわん泣いた。こんなに泣くのは久しぶりだ。明日は俺の目が真っ赤だろう。キャプテンはそんな俺の頭を優しく撫でた。生ぬるい、だけど心地よい手だった。ああ、霧野先輩はこの優しさから逃れられないのだと悟った。そして、この心地よさを知ってしまった俺は、きっとキャプテンを恨む事ができなくなる。そしたら俺のこの心のもやもやを一体何にぶつければ良いだろうか。 君の温度が僕は嫌い (その心地よい生ぬるさが) (きっと、全てを狂わせた) さよならは君だけに様提出。 20120109 |