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side南沢
こいつは、ただの後輩だったはずだ。本当に、ただの後輩で。ならなんで、こんなに必死に俺を思って、こんなに必死に俺を追うんだ。なんで、俺はこんなに心を揺さぶられているんだ。
初めて言われた、「好き」の二文字、愛してる、なんて格好つけた言葉。こんな小さな後輩にはあまりにも似合わなくて、ちぐはぐで、だけど俺の耳から離れない。
「お前、俺なんかのどこがいいんだよ」
「南沢さんは全部素敵っすよ。負けず嫌いで意地っ張りなとこも、本当は後輩思いなことも、すぐに赤くなって照れることも、自分一人でなんでも抱えて、なるべく他人に涙を見せないところも、全部全部」
「良く、見てるな…」
もういっそこいつを好きになってしまえば、幸せなのかもしれない。こんなに自分を想ってくれる相手なんて、多分いない。愛するより愛された方が、きっと幸せだろう。けれど、今こいつの告白に答える事は卑怯だと思った。俺はまだ、三国を好きで、それなのに、こいつと付き合うのはこいつに失礼な気がした。
「南沢さん」
「っ…」
「今すぐに答えが欲しいわけじゃありません。南沢さんが、落ち着いたらでいいっす」
「いつになるかわからねぇぞ」
「大丈夫っす」
なんで、俺は今答えてられないのだろう。こいつは、こんなにも俺が好きなのに。
「いつまでも待ってますよ」
そうやって笑った倉間を、一瞬だけ惚れそうだと思ったことは、こいつには秘密だ。まだ俺の中では三国に敵わないけれど。
(堕ちるまで、あと)
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