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side拓人


好きだよ、と霧野が言った。いつになく落ち着いた声で。その好きがlikeじゃなくてloveなんだって事くらい、いくら鈍い俺でもわかる。霧野は俺に、南沢さんと三国さんは付き合っていないと言う事実を伝えた後、俺に告白をした。馬鹿な奴だ、そんな事実を伝えずに告白した方が何倍も上手く行く可能性が高いのに。

「神童が三国さんを好きなのはわかってる。だから、付き合って欲しいとか、そんなんじゃないんだ」

そして、霧野はふんわりと微笑んだ。

「ただ、神童が辛くなったり、哀しくなったり、淋しくなったりしたら、一番に頼ってほしい。俺は神童に幸せになってほしいんだ」

ああ、こいつは本物の馬鹿だな。だって、ずっとずっと俺はこいつの気持ちに気づかない上に、きっと何度も無神経な言葉を吐いては、こいつを傷つけたのだろう。なのに、俺に幸せになってほしいと言うのだ。

「馬鹿霧野」

「へ?」

自分の不甲斐なさに、涙がポロポロ溢れる。泣いてばかりで、また霧野に迷惑をかけて、わかっているのに止まらないから困る。

「俺だって、お前には幸せになってほしい」

俺がそう言うと、霧野は泣きそうな顔でありがとうと呟いた。

「俺はお前の、優しく笑う顔が好きなんだ。だから、霧野」

上手く言葉を紡げない。幸せになって、と言えない。その言葉を言えば、霧野が自分の傍から離れてしまう気がした。

「神童、俺は幸せだよ。お前が幸せなら」

「ちがっ、お前は」

言葉が詰まる。言いたいことが声にならなくて、むしろ自分の気持ちがごちゃごちゃして、わけがわからない。気がつけば、俺は無意識に霧野に抱きついていた。

「神童?」

「俺は、霧野が大切なんだ。だから、幸せになってほしい。けど、霧野が俺の傍からいなくなるのは悲しいんだ、嫌なんだ」

思ってる事を、そのまま口にすれば、今まで気づかなかった、当たり前のような事に気づいた。


「俺も霧野が好き」


そう言った途端、強く抱きしめられた。俺は霧野の腕の中で、今の幸せを噛み締めた。

(貴方の傍にいたい)









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