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side蘭丸
「三国と?付き合ってねえよ」
今朝からおかしい、と少し思った。何が、って南沢さんが。明らかに、三国さんを避けている(ついでに倉間も避けている)付き合っているなら、不自然だ。多少デリカシーに欠けるかもしれないが、本人に直接聞くのが早いと思って、現在に至る。
「じゃあ、昨日のは…?」
「昨日…、お前まさか見てたのか」
南沢さんが珍しく顔を赤くさせた。
「いや、見たのは俺じゃなくて神童です」
「神童?ああ、それはショックだったろうな」
そう言って南沢さんは少し悲しそうに笑った。
「話はそれだけか?」
「あ、はい」
「じゃあ、神童に伝えといてやれよ。…あ、お前にとっては伝えないほうがお得か」
そう言ってにやりと笑う、南沢さんにいらついた。何で俺が神童を好きな事を知ってるのかなんて疑問はすぐに頭を通り抜けて、俺は南沢さんの胸ぐらを掴んだ。
「訂正してください!!」
「った、離せ。霧野」
南沢の静止はなぜか俺の耳には届かない。まるでBGMのように右耳から左耳へ流れて消えた。
「俺は、俺は、神童の幸せを一番に考えているんです。だから、南沢さんが三国さんと付き合
ってないのは、神童にとって嬉しいことだから、俺にとっても、嬉しいことなんです、嬉しいんです…っ」
脱力して俺の手が離れると、南沢さんは数回咳き込んで、俺を睨んだ。そして、驚いた。理由は明白だ、俺が泣いていたからだ。
「霧野」
「なんです、か」
みっともないとわかっていても、涙は止まらないのだ。後から後から溢れる涙は、今まで溜め込んでいた何かだったのかもしれない。
「素直になれよ」
「素直…?」
「神童が好きなんだろ」
「そうです、好きです」
「なら意地でも手に入れたいと思えよ」
「でも、神童は三国さんといた方が幸せをで…」
「誰が決めたんだよ、そんなこと」
「え」
「お前が幸せにしてやればいいじゃねぇか」
「俺が」
いつの間に涙は止まっていて、さっきはBGMのようだった南沢さんの声が、頭に響く。
「お前は神童を幸せにしてやりたいんだろ?」
「…はい」
少しだけ、今までもやもやしていたものが晴れた。神童にとっての幸せは三国さんと一緒にいることかもしれないけれど、俺がそれ以上に幸せにしてあげると、今誓ってみようか。
(一番の気持ちに素直に)
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