海へ行こうか
ことの始まりは、何だったか思い出せない。松風あたりが騒いだ事が始まりだったかも知れない。
今、俺たち雷門サッカー部一軍は神童家のプライベートビーチにいる。
「うわー、広い!!」
西園が嬉しそうに感嘆の声をあげた。腰には、赤と白のしましまの浮き輪。中学生というのは嘘のようだ。
「信助、ほら、剣城も行こう!!」
「ああ、ひっぱんな」
「速水行くぞ」
「待ってください浜野君」
「神童も行こう」
「ああ、行くか」
「車田、三国、競争するど!!」
「ああ、負けないぜ!!」
「俺も負けないさ」
次々とみんなが海へと走るなか、俺は一人ビーチパラソルの下へ。日焼けはしたくない。勿論日焼け止めは塗っているが、極力日差しの下に行きたくない。そこへ、倉間がやってきた。
「南沢さん、海入らないんすか?」
「やだ、日焼けするし」
「そんな事言わないでくださいよ、女子じゃ無いんだから」
「女子より丁寧扱え、ばか」
「女王様ですか、コノヤロー」
そう言った倉間が、俺の手を掴んで引っ張った。小さい体にそぐわない力に引かれて、半ば強制的に立たされる。
「ほら、行きますよ」
そう言った倉間に引っ張れて、海まで行く。
「砂、あつい」
「そう思うなら走ってください」
そんなやりとりをしたら、あっという間に海辺までたどり着く。
「お、倉間なに南沢さんと手つないでるのさ」
「ひゅーひゅー」
浜野と霧野にひやかせれて、倉間の手を振りほどいて、両手で二人にげんこつを食らわせた。
「うわ、痛そうですね」
「霧野たちが悪いけどな」
傍にいた速水がオロオロして、神童が呆れてため息をついた。
「っ、しょっぱ」
ばしゃっと顔に思いっきり水をかけられた。水の飛んで来た方向を見ると、そこには楽しそうな顔をした松風がいた。隣には髪が濡れて半ば誰だかわからない剣城と西園がいる。
「まつかぜ…」
仕返しの意味を込めて強く水をかけたら、隣にいた西園と剣城にも思い切りかかった。今度は西園がかけた水が、俺ではなくて2年全員に当たる。ノーコンだな。
「やったなあ」
ノリのいい浜野が周り全員に水をかけると、負けず嫌いな倉間や霧野が負けじと応戦する。西園や松風も混ざって水を掛け合い、俺もいつの間にかいた車田や天城に水をかけられたので、三国を巻き込んで仕返しをしてやった。見れば、速水や神童、更には剣城まで巻き込んで、水の掛け合いをしていた。
「うわ、口の中入った。しょっぱ」
「ぼーっとしてるからだ!!」
浜野がぺっぺっ、と口の中の海水を出すのを見て、倉間がくすくすと笑う。その横顔に思い切り水をかけてやる。
「うわっ」
「よそ見してるからだ」
そんな感じで、中学生にしてはアホらしい事を続けていた。
瞬間、ズキッという痛みが右足に走って、右足の力が抜けた。支えを失った体が海に沈む。しまった、そういえば水の深さは腰を優に越えていた。なんとか浮こうとするけれど、パニックで上手くいかない。すると、腕をを力強く握られて、そのままぐいっと持ち上げられた、顔が水面から出るに。
「南沢先輩、大丈夫ですか!?」
目の前にあったのは、焦った松風の顔だった。
「大丈夫っ、足つっただけ」
俺がそう言うと松風は安堵した。いつの間にか周りにみんな集まっていて、なんか少し恥ずかしい。
「俺、先輩と先あがってますね」
松風はそう言うと俺の体をひょいと抱えた。所謂お姫様だっこというやつだ。
「ま、まつかぜ」
「大人しくしないと落ちますよ」
そう言って笑った松風の顔を俺は一生忘れないだろう。後輩を怖いと思ったのは初めてだった。後輩にお姫様だっこされたのも初めてだが。救いはここがプライベートビーチで、他に客がいないとこだろう。まあ後々倉間あたりにはからかわれそうだが。
他に誰も見てないなら良いかな、と思ってぎゅっと松風にしがみついたら、松風の顔が赤くなった。
「…反則ですよ」
仕返しだ、仕返し。どうせ俺の顔も真っ赤なのだから。
遅くなりました。海水浴が季節外れになってしまいましたね
2011/11/30
←