三国←南沢
部活を辞める、と言った南沢が放課後、グランドに来た。丁度その時は俺が一人の時で、南沢はそこら辺に転がっていたボールを一つ拾った。
「戻って来るのか?」
「戻らねえよ」
「なら、どうしてここに来たんだ?」
「お前に伝えたい事がある」
そう言った南沢は、一呼吸おいて
「お前が、好きだった」
と、言った。俺は一瞬言葉の意味を理解できず、呆然としていた。
「気にすんなよ、全部今日で終わりにするから」
南沢はそう言うと、持っていたボールを思いっきりゴールに向かって蹴った。ボスッ、音がしてゴールに入る。
「じゃあな」
と、言って去っていく南沢。最初はわけがわからなかったが、次第に南沢のやりたい事がわかった。南沢は今日でサッカーへの思いも、俺への想いも終わりにしたいのだ。
「待て」
俺は南沢の腕を掴んだ。南沢が驚いて振り向く。南沢の目には涙が溜まっていた。
「南沢…」
俺は南沢を抱きしめた。思ったよりずっと小柄だった。俺も南沢が好きなのかもしれない。今、こいつを抱きしめたいと思ったから抱きしめてしまった。
「三国っ」
南沢は俺の名前を呼んだあと、声をあげて泣いた。俺はそんな南沢をしっかりと抱きしめていた。こいつはこの小さな体にどれ程の想いを抱えていたのだろうか。俺には計り知ることはできないけれど、これからは少しでもこいつを助けてやりたいと思った。
(こいつを守りたいと思った)
2011/07/14
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