蘭(→)←拓前提、拓人独白


会いたい


今ではすっかり疎遠になった幼なじみを、俺はふとしたきっかけで思い出す。中学時代、俺とその幼なじみは付き合っていた。一緒に出かけたり、教室でキスをしてみたり、互いの家で体を重ねたり。幸せだった、と思う。あいつの傍にいる毎日は幸せで、それをどこか当たり前だと感じていた。

別れたのは、中学を卒業する時だった。

嫌いになったわけでも、他に好きな人ができたわけでもなかった。言い出したのは俺で、あいつは少し驚いたあと、わかった、と一呟いた。

あの時のあいつの表情は、よく覚えていない。けれど最後に交わした口づけの味がやけにしょっぱかった気がする。それ以降あいつには会っていない。俺が最後に見たあいつの姿は視界がぼやけていて、曖昧にしか覚えていない。けれど、あいつの顔はよく覚えている。神童、って俺の事を呼ぶ時の表情は今でもよく脳裏に浮かぶ。

「…霧野」

自室のバルコニーで、空を見上げて呟いた。会いたい、と無性に思ってしまった。神童、と俺を呼ぶあいつの声が聴きたい、あいつの笑った顔が見たい。

そこで、ふと気づいた。俺は今でもあいつが好きなのだ、と。気づいてしまったら、ポロポロと涙が溢れてきた。会いたい、会いたい、会いたくて仕方ない。

「霧野、会いたい」

叶うはずの無い願いを、呟いた。

「神童」

あいつの声が聞こえた。滲む視界に、久々に見るあいつがいた。

「霧野っ」

俺は急いで下に降りて、あいつのところに駆ける。

「神童、会いたかった」

そう言って、ぎゅっと抱きしめられた。久々に感じるあいつの温もりに、俺は幸せを感じた。

「俺も、会いたかった」




蘭拓はハッピーエンドが似合うと思う。二人には幸せになってほしい。

2011/07/13











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