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下弦の月の下で(クラウス夢/微裏)

ヘルサレムズ・ロットの空が闇夜に染まった下、仕事を終えたクラウスはライブラへ帰還し事務室へ向かっていた。
扉を開けると気配を察知した。

――己の命と共存している愛しき存在に。

気配がする筈なのに、灯りが灯されていない暗く染まった室内を見渡してもその人物が見当たらない。
おや?と首を傾げたクラウスは声を掛けてみた。


「……結依。居るのだろう?」

クラウスの声が静寂の中に響き渡る。
暫くすると、クラウスのデスクからひょこっと顔を覗かせる結依がいた。
よく見ると彼女は体全体を包み込ませる様に掛布団を羽織っていた。
それを見つけるとクラウスは口元を緩め静かに扉を閉め室内に足を踏み入れ結依の元へ近付く。

「気配消してた筈なんだけどなー」
「君の気配は何処にいても分かるさ。
ましてや我々は『命』を共存しているのだから」
「あはは、そーだったね」
「…所で、そんな格好してどうしたのだ?
君の寝室はこの部屋の向かいだろう?」

何故、深夜に近い時刻に結依が事務室に居るのかが分からなかったクラウスは問い掛ける。
疑問を投げ掛けられた結依は気まずそうに視線を逸らしながら頬を掻く。
……仄かに頬を赤く染めながら。



「……クラウスに『おかえり』って言いたくって待ってた…って言ったら?」



――この娘は何故私の心を揺るがせる言動を平気で言えるのだろうか。
こんなにも愛おしいとさえ思えてしまう。


目の前に照れ隠しする結依が愛おしく思ったクラウスは目を細めながら愛らしい彼女を見つめた。
歩みを進め照れながら顔を伏せる結依の頭に手を置き愛おしい気持ちをたんと込めて優しく撫でる。

「有難う。そして…ただいま」

そろそろと顔を上げる結依の頬はまだほんのり赤みがあった。
笑みを浮かべるクラウスと目が合うと結依はギョッとしたように目を大きく開く。
すると、体を包ませている掛布団をギュッと握りしめた。



――ほんの一瞬だけ心臓が跳ね上がる感覚がクラウスの体を走った。
どくん、どくん……と何度も鼓動が鳴り響いている。

“コレ”は私が感じているのではない。
……結依、なのか?

目の前に立つ彼女は忙しなく視線を泳がせている。
落ち着かせようともう一度撫でてやると、それが引き金になったのか結依の顔が瞬時に真っ赤に染まる。
電気を点けていない暗闇の室内でも結依が顔を赤らめている事が分かる。


「…結依?どうしたのかね?
先程から心臓の鼓動が激しいようだが…」
「……く、クラウス…」
「うん?」


「…私が、もし私が…この世界から消えたらどうする?」

突発的な質問にクラウスは面食らった。
戸惑うクラウスを余所に結依は更に続ける。


「ほら…私って元々別の世界にいたでしょ?
それに堕落王の奴に目をつけられて、一種の気紛れで超人の力を得られて私は…自分を罵った沢山の人を殺した。
一通り殺し終えたら、堕落王はこっちの世界へ 強制に転送させて一人で居た所に……クラウスと出会った」



――――――――――――――



――あの日は雨が降っていた。
濃霧により視界が悪い中、壁に凭れ蹲っている少女が居た。
目を凝らしてみると、腰にまで達している銀色に近い白髪に、両手や爪先が血で赤く染まり身に纏っている衣服にも血で滲んでいた。

放ってはおけなかった。
今此処で見離してしまうと後に後悔すると脳裏に警報が鳴り響いた。
なぜそう思えたのかは自分でも分からなかった。



―――だから、声を掛けた。

蹲る彼女に傘を差し出すと、大きな掌を前に差し伸べ優し気な言葉を送った。


『…如何致した?マドモアゼル?』
『……まど、も…あ?』


それがクラウスと結依のファーストコンタクトだった。



――――――――――――――――――――



考え込んだクラウスは結依の目を見つめながら真剣に、ゆっくりとした口調で答える。


「…そんな事など考えた事は無い。
だが、君が消えたとしたら直ぐに見つけ出してやるさ。
例え……世界が破滅しそうとなったとしても、私は君を探す」
「……私が特別な存在じゃなくても?」
「関係ないさ。
元々君は私の中での“特別な存在”だ。
命を共存したあの日から私は結依と一緒に生きる事を誓った。
この想いに嘘偽りは無い。
どんな困難が訪れようとも、愛する者を見つけるまで私は決して諦めない」


…そう言ってくれると思ってた。
改めて目の当たりにすると本当に愛されてるんだな、て思っちゃう。
そんな真面目な所が大好きだよ、クラウス。



でも…きっと別れる日が訪れる。
いつ堕落王フェムトから得られた強大な力に押し潰されるか分からないのだから。

今の結依は糸一本で吊るされた鉄の塊みたいなモノだ。即ちその糸はクラウスと居られる唯一の“糸”。
鉄の塊は結依の中に宿った“力”。


だから…その日が迎える前に、今…愛しい貴方と……。





体を包ませた掛布団から手を離すと、しゅる…と掛布団が床に落ちていく。
掛布団という衣が無くなった結依の体には……。


柔らかな素肌。
形の良い双方が主張した膨らみ。
滑らかな曲線が描かれた括れた腰。
白く輝く脹脛。


……掛布団の下には、何も身につけていなかった。


目の前に輝く裸体にクラウスは目を見開くと、徐々に顔を赤らめ片手で顔を覆い隠し見ないようにと必死に視線を逸らす。

「…ッ!!結依…!
か、風邪をひくから早く着替えを…」
「ま、待って…!お願い、目を…逸らさないで…!」

結依の切羽詰まった声にクラウスは恐る恐る覆い隠した手を退けると、月夜の輝きに照らされた結依の体が眩しく見えた。
胸元に手を添えると結依は高鳴る鼓動を抑える様に声を震わせながら懸命に言葉にする。
その鼓動の速さはクラウスの心臓にも伝わってくる。


「わ、私達…『命』を共存をした。
けど…まだ『体』の共存をして…いない。
それに私は…いつ自分が消えちゃうのか分かんない。

だから…クラウスと繋がっていたい。
身も心も貴方の全てを私の中で感じていたい。刻み込んで…。
離れていてもずっとずっと…繋ぎ止めて欲しい」



思考が止まった感覚がした。
素肌から布の感触と掌の温もり、大好きな匂いで包み込まれた。
顔を赤らめたクラウスが結依を優しく抱擁していた。
まるで自身の心臓の鼓動を押さえ付けるように隙間なく密着させている。


「……すまない。
その言葉は本来私が言うべきなのに…君の口から言わせてしまうとは…許してくれ」


どくんっ。

「私も結依と繋がってたい…。
聞こえるだろうか?私の心臓も先程から煩くて仕方が無いのだ。…結依もそうだろう?」

どくんっ。どくん…っ!


クラウスの心臓と私の心臓は元々一つなのだ。
互いに欠けた心臓の半分ずつを持っている。
それが今、体という壁に隔たれているが、肌が重なり合うと更に鼓動が激しく跳ね続ける。


う、うわ…。
クラウスもすっごくドキドキしてる。
ほっぺにくっついてるクラウスの肌が熱くて溶けちゃいそう…!

クラウスに抱き締められた結依は小刻みに震えながら広い背中へ腕を回そうとする。

(あ、や…やばい……!
思考がグルグルしてきた…!
……てか、私何くっっそ恥ずかしい事してんの?!!
これだと歩く18禁ザップ野郎と変わらないよ!!)


「あっ!え、えと…クラウスっ!!
ま、待って…あ、いや、ま…待たなくていい…ッ!
じゃ…じゃなくって!ちょっとだけ…
し、心臓が…も、もたな……い…」

盛大に慌てながらクラウスの胸元を押し返す様に身を退こうとするが、それをクラウスは許さなかった。
腰に腕を回し体を密着させるとそのまま固定する。
後頭部を撫でながら耳元にそっと低音で囁く。



「私も…もう、もたない。
結依…。君を抱きたいという衝動に駆られている。

……私に全てを捧げて欲しい」




……も、もう…。
今、世界が崩壊してもいい。

過去の自分に……『死にたい』って思っていた自分に教えてやりたい。


――今アンタは最高に幸せなのだ、と。



知れずに一筋の涙が頬に落とした。
顔を見合わせると、零れ落ちた涙の跡を優しく指で拭い取り頬に手を添える。
顔が近付くにつれ結依は目を閉じる。


唇に重なった柔らかな感触と温もりを何時までも感じていた。




【Fin...??】

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