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連載的な話(クラウス夢)

かつて紐育(ニューヨーク)と呼ばれた街は、たった一晩で消失した。

一夜にして構築された霧烟る都市ーー『ヘルサレムズ・ロット』。


空想上の産物として描かれていた「異世界」を現実に繋げている街。
その全貌は、未だ人知の及ばぬ向こう側であり霧の深淵を見ることは叶わない。
人では起こしえない奇跡を実現するこの地は、今後千年の世界の覇権を握る場所とも例えられ様々な思惑を持つ者達が跳梁跋扈する街となる。


そんな世界の均衡を保つ為に暗躍する組織があった。

その名は…ーー。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ぐぅぅ……。

腹の虫が鳴り止まない事にレオナルドは腹を擦りながら溜め息をこぼす。


今日もあのハンバーガー屋で空腹を満たすか。
……ブラックコーヒーおかわり無料のコースで。








どんっ。


前を見ていなかったせいで、前方から人が来ている事に気付かなかった。


「っ!あぁ、スミマセン!」
「ん、いいよいいよ」

ぶつかったのは女性だった。
買い物帰りなのか、二つの紙袋を手にしている。
レオナルドより少し身長が高く、見上げないと相手の顔が見えなかった。

レオナルドが真っ先に目を奪われたのは、白く輝く銀色の長い髪と、右目の瞳に写った赤い線で描かれた魔法陣の様な模様だ。

見た事の無い容姿に、レオナルドは呆けたかのように口を開け突っ立っていた。
微動だにしないレオナルドに女性は首を傾げる。


「…?私の顔に何かついてる?」
「……へ?!あ、イヤイヤ!滅相もない!
ちょっと見惚れちゃって……あ、イヤイヤイヤイヤ!!
これは新たなナンパとかそんなんじゃなくてですネ!?」


ワタワタと両手を上下に動かしながら非常に慌てるレオナルドに、女性は思わず「…ぷっ!」と吹き出した。


「君面白いね。
一緒にいると、とても楽しそうだよ」
「うえ?!あ……え、えっと…」


そんな顔で言われたら、恥ずかしくて何も言えないよ…。

レオナルドは徐々に頬が熱くなる感覚に戸惑い視線を泳がす。



「あ、もう行かなきゃ。
また会えたらいいね?んじゃ!」


女性はニカッと笑みを浮かばせると、その場から離れて行った。
レオナルドは一歩遅れて「あ、はい!」と生返事を返すと軽く手を振り、女性の背が見えなくなるまでずっと見ていた。





「……はぁ、綺麗な人だったな〜…。

香水もいい匂いだったし……アレって確か『ローズ』だったかな?」


まだ彼女がこの場所にいたという事を証明する『香り』が、レオナルドの鼻を微かに擽った。



―――――――――――――――――――――――


「えーと、『今日』はー……こっちだ」

四方に囲まれた部屋に入ると、目の前にある扉の前に立ち少し考え込みながらゆっくりと手を差し出しボタンに触れる。


――すると、その場だけ一瞬揺れた様な感覚に陥る。

ボタンを押し込んだ感触を指先で感じ取ると、ドアノブを掴み扉を開ける。



開かれた扉の先に、小洒落た雰囲気が漂う広大な室内が視界に飛び込んだ。
中央にはテーブルとソファーが置かれ、その奥には天井まで届きそうな長方形の窓の下にワークデスクが配置されている。

そのデスクに飾れている観葉植物に如雨露で水を与えている人物…秘密結社ライブラのリーダーであるクラウス・V・ラインヘルツがいた。
部屋に入って来た者に気付くと、柔らかな笑みを浮かべる。
その口角から鋭利な牙が顔を覗かせている。



「おかえり、結依。
無事に戻ってきてくれて何よりだ」
「ただいま!
も〜、心配し過ぎだって。ただのおつかいなんだから!」

結依と呼ばれた女性は、あっけらかんとした態度で片手をひらひらと軽く振る素振りを見せた。
だが、クラウスは納得いかないのか、眉を下げる。



「しかし…我々は超常秘密結社『ライブラ』の一員だ。
世界の均衡を守る為に結成された非公式組織で、決して表上に素性を明かしてはいけない。

それに、ライブラを良く思っていない者達も居ない事は無いのだ。
だから一人での行動、ましてや君はレディと言う存在で…………ムグっ!?

「はいはい、ご忠告ありがとう。
でも、私はちゃんと此処にいますよー」

心配するクラウスの口元に紙袋から取り出したドーナツを押し付ける。
むぐむぐと口を動かすのを確認した結依はニカッと笑みを浮かべると、紙袋に手を伸ばし自分用のドーナツを齧る。


「……態々コレまで買ってくれたのか?」
「まあ…ね?食べたかったのもあるけど…
…あ!頼まれてたヤツ……はいっ」

ドーナツが入った紙袋とは別の紙袋をクラウスに差し出す。
巨躯な体型の為少し腰を屈めると、差し出されたものを大事そうに両手で包み込む様に受け取る。

「ああ、有難う。
今朝に切らしてしまってね。助かったよ、結依」

紙袋を受け取ったクラウスは目を細め笑みを見せる。
優しく温かな眩しい笑顔に結依は仄かに顔を赤らめ、気まずそうに体を反転させ食べ掛けのドーナツを再び齧り始める。


「あー……どーいたしまして。
…クラウスは一々礼儀正しいんだから」

もごもごと咀嚼しながら語尾を濁らす結依に、クラウスは首を傾げる。



「…結依、今日は体調が宜しくないようだが?」

予想もしていなかった回答に、思わず首を振り返らせ目を丸くしながら「…は?」と生返事をする。



「なんでそうなるの?」
「いや、先程から脈拍が高まっているから少し気になったのだが…本当に大丈夫か?」
「〜…ッ!?
き、気にしないで!気にしなくとも良し!良か!!」
「そうか?それなら良いのだが、結依は時折無理し過ぎて体調を崩して…」
「ごめんなさいスミマセン今度からはちゃんと伝えます。
『ほう・れん・そう』だよね」
「うむ。出来ればそうしてくれ」



以前ライブラ本部で事務の手伝いをしている最中、結依の顔色が悪いのを誰よりも早く察知したのはクラウスだった。

何故彼のみ結依の体調不良を逸早く気付いたのか、それは……。









「どぅわんなああぁぁ!!!!」



突如、ドスの効いた声が室内に響く。
クラウスの背後に目掛け攻撃を仕掛けてきたのは、結依と同じくライブラの一員であるザップだった。

クラウスは素早く片腕を上げ、ザップの攻撃を受け止める。
その顔には余裕の表情を浮かばせている。
攻撃をかわされた事にザップは眉をひそめ舌打ちをする。

もう片脚で蹴り上げようとするザップに間髪入れずみぞおちに一撃を与える。
かは、と苦しそうに息を吐くザップの肩を鷲掴みにし、もう一発喰らわせる。
完全に伸び切ったザップを気遣うようにゆっくりとした動作で床へ正座させた。

「懲りないね、ザップ」
「これが彼なりのコミュニケーションだからね。
私はそれに対応する様に『受け答え』しているだけさ」
「……クラウスのそのポジティブシンキングには、本当に尊敬するわ」



よく見ると、ザップの後方に見覚えのある人影を見つけた。
先程街中でぶつかった小柄な男の子だった。




「…ん?あれ、君は」
「あ!あなたは…!」




新たなライブラ一員と結依の物語は、まだ始まったばかりだ。



【To be continued...】


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