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「#幼馴染」のBL小説を読む
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03.花彦くん「シルシ」

九条館のホールへと案内されながら八敷と萌から説明を受けた勇廻は、どう反応してよいのか分からずにいた。

数日に掛けて記憶が消され、後に死に至ると言う“シルシ”。
その“シルシ”を刻む怪異と呼ばれる存在。
“シルシ”に刻まれた者の事を『印人(しるしびと)』と言うらしい。


「この様な痣は見た事無いか?」

そう言うと八敷は右手首を見せた。
彼の手首には赤く刻まれた奇妙な形をした痣があった。
まるで獣の口を連想する様なそれに勇廻は顔を顰める。

萌と真下にも、いつの間にかシルシが刻まれていた。
萌は太腿、真下は手首に。
だが、勇廻には見覚えが無かった。

「…いいえ、見た事がない」
「なら、何処か痛む所とかはないか?
例えばズキズキと締め付けられるような…」
「痛み?……あ」

八敷の言葉を聞いて心当たりがあった。

H小学校に吊るされ真下に救出された際に、僅かに下腹部に痛みが走った事を思い出した。
まさか…、と小声で呟きながら服の上から下腹部を擦る。


「見せろ」

隣に歩いていた真下が突発に口を開き勇廻の回答を待つ間もなく、不意に勇廻のシャツを捲り上げる。
少し腹筋がつき引き締まった腹が露わになる。
突然の行為に驚いた勇廻は目を疑った。前を歩いていた八敷と萌も驚いて歩みを止めた。
二人が驚いたのはそれだけでは無かった。
その視線は勇廻の下腹部に向けられていた。真下も眉を寄せながら凝視した。

「…やはりな」
「………やっぱあるの?」
「自分で確認するか?」
「……」

恐る恐る自分の腹へと視線を下ろす。


下腹部には皆と同じシルシが刻まれていた。
花彦くんによる薔薇の棘で負傷した傷よりもシルシが大きく主張している。
禍々しい赤色に刻まれたシルシを見るだけでも、何処と無く寒気を感じた。

「お前も印人になっているとはな」
「…どうしたら、いいの?」
「今からそれを説明してくれる奴に会わせる。…『人』ではないが」
「人ではない?では、なんだ。
バケモノにはバケモノに聞けって言うのか?」
「……間違ってはいないが、俺達に危害を加える様子はないみたいだ」

自信無さげに答える八敷の様子を見た勇廻は首を捻った。




「……まあ…シルシについては分かった。
生と死が関わっている重大なものだって言うのは充分に分かったよ、うん」

目を閉じ勇廻は腕を組みウンウンと頷く。
だが、一つだけ納得いかないことがあった。それは……。



「なんで私のだけ……臍の下なの?」

そう、勇廻のシルシは下腹部に刻まれているのだ。
八敷、真下のシルシは手首か手の甲。同性である萌のシルシは太腿。

どうも納得いかない。いや、納得出来ない!


「何を文句垂れている。お前も印人と言うに変わりはないだろ」
「いやいや、それは十分承知してるよ!
問題は刻まれた場所!なんで私のだけ臍の下な訳?!
見せるこっちの身にもなって!」
「どこに問題があると?」
「女として!!!」

ギャーギャーと喚く勇廻に真下は呆れたように溜め息を零す。
八敷も何とも言えずただ二人のやり取りを見守っている。

「生死が関わっていると言うのにえらく余裕だな。
お前のその余裕っぷりには付いていけん」

皮肉も交えて真下は両手を前に翳す。
……下らん、と言う台詞が聞こえてきても可笑しくないくらいの雰囲気を漂わせて。



真下により下ろされたズボンの間に見えた下着と勇廻の柔肌が、何とも艶めかしく思えた。

「……」

その光景を脳裏に浮かび上がらせた八敷は、徐ろに口元を片手で覆い、頬を紅潮色に染めながら顔を背けた。




「一々そんな事を気にしている場合では無いことを分かっている筈だろ」

不貞腐れている勇廻を諭す様に真剣な口調で語りかける真下の声に現実に戻される。
流石の勇廻も真下の言葉に耳を傾け、コクっと一つ頷き「…すみません」と謝罪した。

そうこうしている内にホールへと辿り着いた。
ぼんやりとした程良い明かりがホールを照らしている。



「ようこそ、九条館へ」


八敷の言葉の真意が分かった様な気がした。
確かにこれは『人』では無い物だ。だが決して『バケモノ』でも無い。

真下と勇廻を迎え入れてくれたのは、凛とした声の持ち主である球体人形メリィからであった。
等身大の人形と言うだけあって、遠目で見たら人間と見間違えるくらいに巧妙に造り上げられている。
真紅色のシック調なソファーに腰を下ろし勇廻達を見つめている……ようにも見える。
勇廻は驚いていたが、真下は表情を崩さずにメリィを凝視している。


「…ほ、本当に人形が喋っている…。
まるで…Bloo●bo●eの人形さんみたいなオートマタで……だっ!?」
「私語を慎め」
「…ご、ごめんなさい…」

自分の世界に入り始めた勇廻の頭上に真下が容赦なく手刀を振り落とす。
脳の中にまで響く様な鈍痛に口元を歪め両手で頭を庇う様に蹲る。


「あの女の人、本当に刑事さんなんですか?
とてもそうとは思えませんが…」
「警察手帳も持っていたから本物の刑事なのは間違いない。
…まあ、刑事の中にも色んな人種がいるとでも思っておけ」

そんなやり取りを見たつかさは思わず八敷に耳打ちをする。
八敷は苦い顔をしながらつかさに聞こえる様に腰を屈め口元に手を添え小声で弁護する。
だが、つかさは未だに信じられないとでも言いた気に「はぁ…」と生返事しながら受け流す。



「…其方のお二方も印人のようですね。ご紹介いただけますか?」

コントのように接している(二人からしてはそんなつもりは全く無い)二人に気付いたメリィが興味があるのか尋ねてきた。
八敷はこのままでは埒が明かないと思い簡潔にメリィに事の成り行きを伝えた。


傍で八敷の話を聞いていた勇廻も最初は信じ難いと思ったが、先刻自分が受けた不可思議な現象を思い出しブルっと震えた。
腕を抱き締めたその体の所々に、薔薇の棘により服が引き裂かれ血が滲んでいる。
それが嘘ではない事を物語っていた。


「おい、八敷。
こいつを読んでおけ。あの地下室で押収した物だ。
発見した時は薔薇の蔦が幾重にも固く巻き付いていてな…、取るのに随分苦労したよ」

思い出したかのように真下がコートの懐から一冊の革表紙の手帳を八敷に手渡す。
よく見てみると、表紙には赤黒いシミがこびり付いていた。
――そのシミが乾いた血の跡だと、言わなくても分かった。


そう言えば、兄さんに膝枕をされた時に何かと格闘しているなと思ったら薔薇の蔦を解こうとしていたんだ。
……時折舌打ちが聞こえてたのは内緒。まあ、それが兄さんの癖と言っても可笑しくは無いし。

それと…手帳を読んでいた真下の顔から静かな怒りを感じていたのも勇廻は見逃さなかった。
あの手帳には良からぬことが記されているに違いない。
だが、今回の事件に関しての貴重な手掛かりかも知れない。


「中は読んだのか?」
「ざっとはな。中々面白い事が書いてあった」

……目が笑ってない。寧ろ怒ってる。
真下の表情を読み取った八敷は嫌な予感を覚えつつ手帳の表紙を開き中を覗いてみる。
頁を捲るにつれて薔薇の花弁がひらりと零れ落ちる。
そして、八敷の瞳の奥から嫌悪感の光が徐々に強まっているのが分かった。

「…何て書いてあるの?」
「あまり…良いものではない、とだけ言っておく」
「でも今回の件に関して何か関係あるんでしょ?それなら私にも知る権利がある」
「…あの、僕も…内容が知りたいです。
なんて書いてあったんですか、おじさん?」

つかさと勇廻を交互に見やり、真下に視線を送ってみる。
…が、真下はお前が決めろと言いたげに鼻で息をつく。
重い溜め息を零した八敷は重い口を開いた。



「この手記は…かつてH小学校の校長のものだ。
そして…その内容は……」



【……To be continued】

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【補足】
勇廻は極度のゲーマーさんです。
ストレス発散はお酒を片手にゲームを満喫する事。
真下はよくそれに付き合って一緒にゲームをしています(主にブラボ)

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