大人未満はお断り(長嶋視点な真下夢)

暗闇に包まれた夜空の下にある九条館にはまだ仄かな明かりが灯っていた。
長い廊下を照らすように所々に灯された照明の灯りを頼りにトイレを目指していた長嶋はそろりと足音を立てないように歩いていた。



「…くそ、でけぇ館は苦手なんだよな。
真夜中の館なんざ不気味さが増すだけだっつの……ん?」


ふと、足を止める。
曲がり角から話し声が聞こえた。
小声で聞き取れなかったが、抜き足で近寄ると声の主が漸く理解出来た。


廊下の照明の下に真下と勇廻の二人が話し合っていた。
何を話しているのはか分からないが、勇廻が手にしている書類を見て真下が何かを言っているのだけは分かった。

何故か勇廻の身体にはバスローブを纏っていた。風呂上り…なのだろうか。




なんだ?シミ男の件について話してんのか?
でも…まぁ、あの二人は確か兄妹なんだっけ。
……俺は未だに信じらんねぇーけどな!

…と、刑事の勇廻の姐さんが警察になんらかで報告するかなんかで真下の野郎にアドバイスを貰ってるとか何かか?


こそこそと二人の話に聞き耳を立てようとした時だった。





――真下と目が合ったような気がした。

ギクッと体を硬直させるが、それとは裏腹に…一瞬真下がニヤッと不敵な笑みを浮かばせているように見えた。



真下がもっと近寄れと言う様にくいくいと指を上下に揺らし勇廻を此方へと招く。

「…おい、勇廻」
「ん?何、兄さ……っ!?」




……ッ?!?!


今目の前に起きた事に長嶋は理解が出来ずにただただ混乱していた。
近付いた彼女の手首を咄嗟に掴みあげ壁に押し付けると、覆い被さるようにキスをした。しかも深めの…大人のキスだった。
二人の足元にハラハラと書類が舞い落ちる。



「…ん、…や、ふぅ…っ!」

真下は何度も角度を変えながら勇廻の唇を求める様に深く口付ける。

ピチャピチャと濡れる音が嫌でも耳に入ってくる。
二人の舌が絡み合い唾液を交換し合う艶かしい水音、勇廻の荒く甘い吐息がクリアに聞こえてきているような錯覚に陥る。



――な…、何してんだアイツら!?
八敷のおっさんやニュースキャスターの姉ちゃんや人形がいんだぞ?!
見られたらどーすんだよ!!?


目を逸らしたいのに逸らすことが出来ないでいる。
何故なら……。



「ぅ、ん…ふぅ…は、に…兄さ…ッ」
「もっと聞かせろ。
お前の甘い声が聞きたい…ほら…」
「…ッ、ひ、あんっ!
だ、駄目…ぃあっ!」


姐さんと慕っている勇廻の顔が、声が……女として見せているからだ。
それは決して皆の前で見せることのない、真下の前だけにしか見せない『顔』だったから。


掴んでいた手を下ろすと、バスローブの中へ手を忍ばせる。
その拍子で乳房が見え隠れする。
少し開いたバスローブの下に勇廻の肌が照明に照らされていた。
真下は晒された肌に顔を近付け首筋から鎖骨に掛けて軽く舌でなぞる様に舐めていくと、舌の感触にビクッと反応した勇廻の口からまた甘い声が漏れる。

『女』の顔を見せている勇廻に、体の芯から芯まで熱く火照っているのを嫌でも実感していた。



あ…姐さんもあんな顔するんだな…。
はっきり言って…エロい。すっげーエロい。
妖艶な雰囲気を漂わせている濡れた目に映っているのは俺ではなく、真下だ。俺じゃ無い。



くにゃ…と砕けそうになっている腰を支えると、勇廻の額に軽く口付ける。


「……続き、ほしいか?」
「…ん、して…兄さん……」
「くくっ、上出来だ」
「兄さん…好き」
「あぁ、よく知っている。
…俺もお前を愛しているぞ、勇廻」



それ以上は聞けなかった。
長嶋は早足でその場を後にした。
彼の顔は勇廻以上に紅潮に染まり目には涙を浮かべていた。

数歩歩くと廊下の壁に背を預けズルズルと腰を下ろしていき口元に手を添える。



姐さんの……あんな顔見たことねぇ!
な…んだよ、この後ろめたい気持ちは…!くっそ…!!



暫く長嶋はその場に座り込んだまま一人悶絶していた。






――――――――――



……ふん、行ったか。
散々勇廻の声を盗み聞きするとはな。


「…兄さん?どうしたの?」
「いや、この後どうやってお前を抱こうと思ってな」
「ば…バカ…」
「待ち望んでいる癖によくそんな事が言えたものだな?」


ぐ…と口を尖らせる妹に満足したのか真下はククッと喉を鳴らしながら愛しい妹の顎に手を添えクイッと上へと向かせる。
廊下の照明に照らされた淡い光を受けた勇廻の唇がいやらしく見えた。
口角を上げると、再び深い口付けを交わす。



勇廻とシミ男に関する情報を話し合っている中、廊下の角から視線を感じた。
俺の前に立つ勇廻の肩越しから見たら、角に隠れるように此方を伺っている長嶋のガキがいた。


アイツが勇廻の事を変に気に入っているのは前の件で充分に知っている。
だから、敢えて彼奴が見ている前で勇廻の唇を奪ってやった。




――少しは『大人の世界』とやらを見れただろ?
クソガキが。



【Fin....】

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