お昼はグラタン | ナノ



ぱり、薄いプラスチックのパッケージが音を立てた。視線を落とすと腕にぶら下げた買い物かごの中に新たな商品が。
「なんですか、これ。」
「団子。うまそうだろ?」
「却下です。返してきなさい!」
「えーー!」
えーっじゃない!歳に似合わず駄々をこねる姿には目もくれず、ジャーファルはスタスタと和菓子売り場に戻り、団子を元あったであろう位置に置き直した。

今日は授業はない。練習もない。どころか、入試の準備のため学校自体が立ち入り禁止なのである。さて一日何をしてやろうかと考えていた矢先に電話が一本。
「ジャーファルの作ったグラタンが食べたい。」
部長直々の命により本日の昼食を作る羽目になったわけである。

「ふう、こんなもんですかね・・・」
牛乳などホワイトソースの材料に、じゃがいも、マカロニ、チーズなどなど・・・一通り揃えていたら結構な量になってしまった。

「だから俺が持つって言っただろ?」
「ヤですよ。シンがもったら必要のないものどんどん入れちゃうじゃないですか。」
「俺には必要なんですぅー。」
そう言いながらも新発売と書かれたお菓子に手をのばす。カゴに入れられるまえにと、ジャーファルはさっさとレジに並んだ。

「あ、カート持ってくりゃよかったのか。」
ひょいと前に並ぶ客を、ジャーファルの頭越しにのぞきつぶやいた。
確かにそうなのだが、なぜ最初に持ってこなかったかって二人分のグラタンを作るのに必要な牛乳や何かしらの野菜は、きっと家にあるだろうと思っていたからだ。
あとはマカロニやパセリなどいくつか購入すればいいだけだろうと踏んでいたのだが、聞いてびっくり。冷蔵庫には酒といくつかの加工食品しかないらしい。一体今日まで何を食べて生活してきたのか・・・。
栄養や今後のことも考え選んでいたらこの量だ。これでも無駄なものはほとんど入れていないはずだ・・・。

「こんにちは、いらっしゃいませ!」
と思っていたのも束の間。レジを通していると食材のあいだから出てくる出てくる。いつの間に忍び込ませたのかチョコレートやらつまみやらが。
「いつの間に入れたんですかこれ!」
「やー、だってつまみといえばさけれるチーズだろ。」
「はあ・・・、また二段腹になってピスティにつままれますよ。」

どうせ今日の夜は遅くまで酒に付き合わされるんだろう。カロリーを抑えたつまみを作らねば。
主演を張る演劇部部長の腹が歩くたびに揺れていてはしめしがつかない。

「あれ、お嬢さん見ない顔だね、新しいアルバイトさん?」
「あ、は、はい、先週から・・・。」
「へえ、君みたいな可愛い子にだったらいくらでも払っちゃいsぶぇ!!」
「ほら、ぼさっとしてないで運んで詰めてください。」
どこから出てくるのかするすると甘い言葉を紡ぐシンドバッドの口に、ジャーファルは持参した折りたたみ式エコバックを文字通り突きつけた。
ちなみにこの店はエコバック持参だとポイントがつくのである。

「ありがとうございます。4628円でございます。」
「・・・あー、シン、10円ありますか?あ、やっぱ11円。私17円ならあるんですよね。」
「11?あー、あるある、たぶん。」
二人して財布の中の小銭とにらめっこをし、端数を数える。カラカラとトレーにおいていくと、ちょうど金額分が揃った。

「ありがとうございましたー。」
重たいものは横にして底に。生ものはラップ部分を合わせてナイロン袋に。
教わった通りに袋詰めを終えると、ジャーファルからGOODサインが出た。
買い物袋を一つずつ下げて、家路をたどる。シンドバッドは先刻から顔が緩むのを抑えられないでいた。

「なんですか、気持ち悪い。」
「ジャーファルくんひど・・・。いや、なんかさ。いいなって。こういうの。」
お昼ご飯をきめて、二人で食材を買いに来て、ちょっと怒られながら買い物をして、二人で小銭とにらめっこして、空腹を満たす手作り料理を楽しみにふたりで歩いて帰る。
なんだかこれって

「新婚さんみたいじゃないか?」
「・・・っ、なにいってんですか、バカシン。」
む、と閉じられた口元だったが、恥ずかしさのせいか嬉しさのせいか、若干緩んでいるような気がした。
それだけでシンドバッドの顔が更に緩んだ。


なんでもないこと

(なんとなくが、なんかいい。)





-------------
お会計の端数を二人で払うのっていいなって思ったのです。
お久しぶりすぎて文章崩壊してて申し訳ないです