矛と盾 | ナノ

「二度とその力を使うな。絶対に、だ。」
あの時の芯から身震いするような強い瞳が忘れられない。
掴まれた方にはくっきりとした指の跡が、その後二週間ほど消えなかったのを覚えている。
あれほど強く物を言われたのは、あとにも先にもあれきりだったのではないだろうか・・・
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「行ってしまいましたね」
「さみしいか?」
「そうですね、特に賑やかだった子達が言ってしまったので・・・」

マグノシュタットからアリババたちが帰還し、お祭り騒ぎだったのも束の間。練紅炎の要請により今日、バルバットへと出港していった。
とはいえ、私たちものんびりしている場合ではない。会談へ向けて準備を進めなければ・・・

闇夜に昇る月にグラスを傾けながら、シンがつぶやいた
「しかし、マグノシュタットでの戦いを見てつくづく思ったよ。これからの主戦力は金属器だ。何千の兵よりも一人の金属器使い・・・皮肉なものだな」
「いいじゃないですか、犠牲者が少なくて済む」

先の戦いが壮絶であったことは聞いている。アリババ君や煌帝国の金属器使いの力を総動員しても苦戦を強いられた相手・・・一般兵は愚か、眷属の力を持ってさえ足でまといになったかもしれない。
空になった杯に酒を継ぎ足すと、「珍しいな」と苦笑をこぼされた。
「・・・煌帝国の将には、既に眷属器と同化した者が多いそうですね」
それを傾ける手がぴたりと止まる。探るように視線がこちらへ向いた。

「これからの主戦力が、ジンの力になるであろうことは明白です。ですが、眷属である私たちに宿る力はほんの一部でしかない・・・!私は、」
「だめだ。」
ぴしゃりと水を打つような言葉に遮られ、喉までせり上がっていた言葉は声にならずに口の中で消えていった。

「いったはずだ。眷属と同化することは、許さない。力が必要なことはわかっている。だが俺が必要としている力は、仲間の犠牲の上に成り立つものじゃない。」
「・・・よく言いますよ。煌帝国の姫君の心を利用しておいて・・・」
「一人に多くの負担をかけることはしない。だがその代わり多くの協力者が必要だ。彼女もそのひとりなんだよ。」
「あなたは昔から、人を利用することは上手かったですからね。」
初めて共にダンジョンに入ったときのことが思い出された。あの時は全員この男に一杯食わされたのだった。

少し首をかしげたあと、同じ情景を思い出してか、シンもくすりと笑いこちらへと手を差し伸べた。その手に惹かれるがまま私は膝の上へと腰掛けた。
「ヴァレフォールのダンジョンの時のこと、まだ根に持ってたのか?」
「そういうわけじゃないですけど・・・ふと思い出したんですよ。歳ですかね」
「やめてくれ、悲しくなるから」

いつの間にか伸びた手が、私の方から官服を下ろす。腕から首へと指先が辿り、背中へとまわった。
「っ・・・!」
月光を反射する青みがかった鱗に爪を立てられ、思わず体がはねる。
「今はまだこれだけで済んでいるが、同化を続ければいずれ人の形をも成さなくなり、精神さえも消えてしまう・・・。それは、お前がお前じゃなくなるということだ、ジャーファル。お前という存在が、俺の前から消える」
「い、た・・・、シン・・・!」

シンドリアが戦火に包まれた、もう何年も前の戦の折・・・私は無意識にバアルと同化していたらしかった。そのときの記憶は何もない。
ただ気づいたら敵の屍が当たりに“散らばって”いて、シンがとても怒っていた。
同化の影響だろうか、あれ以来、私の背にはバアルの鱗が残ったままだ。

「俺の前から、消えることは許さない。」
「・・・仰せのままに、我が王よ・・・」


約束を守ればあなたを護れない
     貴方を護れば 約束を守れない



悲しきジレンマの中で


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眷属と同化しかけている人たちがいる・・・というのがジャーファルさんだったらなというお話。
それを語るときのマスがイケメン過ぎて私は・・・!!

文章が定まらなくて消化不良ですがこのネタで書きたかったのです。
お粗末さまでした。

14/06/16 暁